mitei 藤倉くんはちょっとおかしい3 | ナノ


▼ 1.藤倉くんとお守り

「ふーじくーらくん」

「はーあーいー?」

「ちょっと聞きたいことあんだけど」

「あぁ、俺朝飯は食わない派だったんだけど澤くんが朝は和食派って知ってからは練習がてら自分で作ってちゃんと食べてるよ。でももし洋食の気分になってもフレンチトーストとかスクランブルエッグとかも作れるから何でも言ってね?最近ではエッグベネディクト?ってやつも、」

「…もう突っ込まねえぞ。俺朝飯は和食派とかお前に言ったことあったっけ。じゃなくて!これ!これ何!?」

「写真だね」

当たり前のことをしれっと言ってのけた目の前の彼は今日も無駄に爽やかな笑顔を輝かせている。毎日毎日、何がそんなに楽しいのか基本的にヘラヘラしているこいつは今日もやっぱり通常運転のようだ。

事の発端は先程、購買にて。
藤倉の財布からひらりと落ちた一枚の紙を拾った俺は一瞬状況を理解出来ずに固まった。
問い詰めるにしてもその場では他の生徒の迷惑になるので、ちょっと人気の無い場所へ彼を連れ出して今に至る。

「そんなこと分かってる。じゃなくて、ここに映ってるのは?!」

「体育終わりに無防備にも蛇口で顔を洗った直後の可愛らしい澤くん」

「お前にはこれが可愛く見えるのか、それともふざけてるのか?」

「可愛いっていうかこの写真はどっちかっていうとえろっゴホッ…かっこいい部類だよね」

「どっちにしろ意味が分からない。俺が聞きたいのは、何でこんなものお前が持ってんだってことだよ」

「お守り、みたいな?」

「はあ?」

「それを財布に入れてると金運がアップするんだよ」

「んなわけあるか」

「ゴメン違った。どっちかというと恋愛運」

「そんな効果あってたまるか。ふざけてんのか?」

「ゴメンゴメン。ちょっとふざけた」

「正直でよろしい。ってかホント何で俺の写真なんか持ってんの」

「だからお守り。みたいな」

元々意味が分からん奴だとは思ってたがやっぱり意味が分からない。何か事あるごとにカメラ向けられてるなってのは流石の俺でも気づいてたけど、まさか俺の写真を持ち歩かれているとは…。ってか二人でいる時のやつでもないし、これは完全なる隠し撮りじゃないか。隠し撮りもしてたのかよ、こいつ…。

何と返せばいいのか分からずじとっと藤倉を見上げると、きょとんとして見つめ返してくる。すると段々形の良い眉が下がり、心なしか申し訳なさそうな顔になってきた。いつもヘラヘラしている顔が何だか少し寂しげな雰囲気を纏って、何というか、…あざとい。

「な、なんだよ…!」

デカイ図体している癖に子犬にでも見つめられているような気分だ。「くぅん…」という鳴き声でも聞こえてきそうだな…。猫、鳩ときて次は…犬倉。

「俺ね、中学の時あんなだったから友達とか居なくて…。だから嬉しくて、つい。ゴメンね、澤くんがそんなに嫌ならもう捨てるから…」

「え、え、あの別に嫌とかじゃ、びっくりしたしめっちゃ恥ずいし出来れば止めて欲しいけど…何もそこまでってわけじゃあ…」

そこまで悲しげに言われると何だかこっちの方が凄く申し訳ない気分になってくる。確かにこいつの行動は理解不能だしどう反応したらいいのか分からないことが多いけど、人を傷つけるようなことはしないし…。

「じゃあ、持っててもいい?」

「え、えぇ?う、えぇー…と」

分からない…。友達の写真持ち歩くって普通か?どうなんだろう…。スマホの中にデータとして入ってるのが紙媒体になっただけだし…?アリなのか?あれ、やばい訳分からんぞ。そうこうして俺が悩んでいる間にも、藤倉はどんどん寂しげな表情をしてふいっと目を逸らしてしまった。さらりと垂れた髪が目を隠してしまい、代わりに力無く垂れた犬耳が見える、気がする。

「ゴメンね…。やっぱり気持ち悪いよね、こんなの」

「いやいや分かった!分かったから、返すよ…はあぁ…」

結局根負けして写真を返すと、藤倉はぱあっと顔を輝かせて「ありがとう!大事にするね!」と満面の笑みで胸ポケットに写真をしまった。尻尾があったら絶対ブンブン振り回してるんだろうな。

いくら友達がいなかったとはいえ、俺の写真なんか持ってて何が楽しいんだろう。こいつのことを知る度に謎が増える気がしてならない。

というか返してから気づいたけど、こいつまさか…まさか他にも持ってんじゃないだろうな…?そう思ってじいっと隣の変人を見上げる。俺の視線に気づいた藤倉は少し恥ずかしそうに、だが明らかに嬉しそうににこっと爽やかに微笑みかけてきた。

「なぁに?」

「あー…いや、何でもない…」

何かもう、また今度でいいや。
嘘偽りなく楽しいと伝えてくるその顔に、正直絆されつつある自分が怖い。

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