空は青い。ちょっと嘘吐いた。薄曇りなので、正確にはちょっと灰色っぽい。たまに青空が覗くくらいだが、雨は降らないって予報で言ってた。本当かなぁ。隣の空気はピリピリしてんだけどな。
「ていうことがあってさぁ…」
「………」
いくら俺がエアーあごひげを撫でつけようが、じいいっと遠慮なく見つめようが、あづみはピクリともしなかった。返事もなし。ただ顔が段々とその心の内を表していくのが分かった。どうやらお怒りのようだ。何で怒ってんのかな。
「あのー、あづみさーん」
「………」
「聞こえますか、現場のあづみさぁん」
「………で」
「え、なんて?」
「それで、何て返事したの」
おぉ…オーラが黒い、気がする。眉間にこれでもかと皺を寄せたマイベストフレンドはその皺をそのままに、ようやっと視線を俺に向けた。俺に対して怒ってる訳じゃないっぽいけど、やっぱ怖い。ズゴゴゴゴ…ていう効果音が見える気がする。
「断ったよ。意味分からんもん」
「………は、そっか」
あ、ちょっと和らいだ。はっと息をついたあづみはパチパチと瞬きをすると、眉間の皺をちょっと少なくすることに成功したらしい。良かったね。それにしても、初めてあんな怒ったっぽい顔見たなぁ。糖分不足かな。
「お昼ご飯も放課後帰るのも、別に俺と一緒じゃなくてもいいのにな。俺と話してて特に楽しそうって訳でもないし、そんな相手とデートとかマジで意味分からん」
本当に、あの転校生くんは俺と話したいから話してるようには見えない。時間が経てば経つほど、回数が増えれば増えるほどこの人は俺自身に興味がある訳ではないんだろうなってのが分かるようになってきた。もしそうでなくて、本当にただ純粋に俺という人間に興味を持って、一緒に居るのが楽しいからもっと一緒にいたい、とか言われてたら俺だってこんな態度にはならないだろう。でも違うっぽいって俺の勘が言うから、あと隣のマイベストフレンドも嫌そうだから断ってきた訳なんだが。それにしてもデートて。言い方も意味分からん。
「みやとは、それでいいの?」
「デートしたくないのかって?したそうに見えるかこれが」
「いや、全然。でも…」
「でも、なに」
「………見る目だけは、あるのかもなぁ」
「はぁ?」
ふと緩んだ口元から発せられた言葉は誰に対してなのか分からなかったけど、ちょっと馬鹿にされてる気がした。
いつの間にか黒いオーラはどっか行ってる。空も青く晴れて…はないけど、隣の空気が晴れてきたからまぁいっか。
「あ、でも」
「なんすか、みやとさん」
「デートも断ったら、何でか明日だけ一緒に帰ることに…なって…」
「へぇーえ?」
あ、また闇の支配者オーラが…。
そう、お昼もダメ、放課後もダメでデートもダメ。ダメダメ尽くしでそんなに断る権利が俺にあるのかとクラス中の視線に負け…た訳ではないけど。転校生くんが、ぽつりと零した一言が俺には決定打だった。
「じゃあ、いつも一緒にいる彼の方誘ってみよっかな」って。完全にあづみのことだと悟った俺はびっくりしたけど、どこかで納得もした。今まで俺に付き纏ってたのは俺に興味があったからじゃない。あづみに近づくためだったんじゃないかと。そんなことをあづみに知らせたくはなかった俺は、闇の支配者になりそうなあづみをどうどうと宥めた。
「明日だけだから、な」
「おれは置いてくつもり?」
「ううん、二人でって言われたし…。それに、別に俺らだって毎日約束してる訳じゃないじゃん」
「は?」
「え、こわ…」
「みやと、押しに弱いにも限度が…」
「明日だけ!だから、そんな怒んなって…」
ん?あれ?
いやそもそも、何であづみがこんなに怒ってるんだ?
転校生くんの話題になる度どこか不機嫌そうになることはあったけど、あづみとはクラス違うし。転校生くんと直接やり取りしてんのも見たことないし。あづみは転校生くんのこと嫌いっぽく見えるけど、転校生くんの方は多分あづみに近づきたいみたいだし…。んんん、こんがらがってきた。でもとにかく、あづみがこんなに嫌がるなら尚更、俺が何とかして転校生くんからあづみを守るしかないっぽい。転校生くんが悪い人か分からんし、真意も分からんけどね!!
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