「ねぇ、この学校ってカップル多いよな」
「そのお話こないだも聞きましたね」
「みやとくんは相変わらずよそよそしいね。オレ寂しいなぁ」
「ははは」
ならすぐそこで君をガン見しているあの集団に入ればいいと思うんだよな。こうも毎日毎日俺に付き纏うんじゃなくてさ。マジでいつ飽きてくれるんだ。
転校生くんは、同じクラスだけど別に席は近くない。俺は学級委員でもないし同じ部活に入ったとかでもないし、そもそも俺は帰宅部期待のエースだし、同じくらいということくらいしかこのキラキラ転校生くんとの接点はないはずだ。なのにどうしてか彼は、ファンクラブに阻まれない限りはこうして俺に絡んでくる。意味分からん。友達ならすぐに何人でも何百人でもできるだろうに、わざわざ俺の席まで来て話し掛けてくるのマジで何。あれか、人類みなお友達スタイルの人か。同じクラスである以上俺も例外なく友達として認定されているのか。俺とは「友達」の基準がかなり違うタイプか…?だとしたら大分苦手だ。初めっから結構苦手だが。
幸いというか、昼休みにまでこうして邪魔をされることはなかった。いつもあづみと一緒に居る屋上に誰か他の生徒が入ってくることは滅多にない。一応立ち入り禁止だからね、この学園の屋上。そう考えると俺とあづみってちょっと不良っぽい?
どこから入手したのか聞いても教えてくれない屋上の鍵をあづみが持っていたことで俺たちはあそこを使えている訳だが、その安らぎの場所に転校生くんが来るのはあいつもいい顔をしないだろう。めっちゃ渋面すると思う。というか俺も嫌である。転校生くんのこと嫌いとかじゃあ、ないんだけどなぁ。
「みやとくん上の空じゃん。やっぱオレと話してるの退屈?」
「え?いやぁ」
うん。とても。とまでは言えないくらいには大人な俺。顔には出てるんだろうなぁ。ははは。
「…あのさ、今日もお昼一緒に食べるの難し?」
「そうだなぁ。というか別に俺と食べなくても、もう友達たくさんいるでしょ」
「みやとくんは厳しいなぁ。オレはみやとくんともっと話したいんだよ」
「俺と話してもおもろいことないと思いますよ」
「あるよ。ちょっとだけ、チャンス欲しい」
「チャンス、とは…?」
最近の若者の考えることはさっぱり分かりませんな。あごひげをさすりながらそう考えるも、俺にはあごひげがないのでエアーあごひげだ。でもマジで同い年でもさっぱり分からん。チャンスってなんなん。
あの後周りの「言うこと聞いてやれよ…」という転校生くんガチ勢の視線の中、俺は謎の提案をされた。
お昼ご飯を一緒に食べるのは諦める。その代わり、これから放課後一緒に帰ろうと。嫌なんだが。てかその代わりって何。そうまでして一体何を話したいというのか。マジで分からん。
という訳で、俺に何の利もないその提案を俺は断った。あづみ居るもん。一緒に帰るってことはあづみは置いてけってことか?それとも三人で一緒にってこと?どっちみちやだ。転校生くんには申し訳ないが、俺にはあづみより転校生くんを優先する理由が全くないんだ。すまんとは思うけど。あとシンプルに距離の詰め方が苦手。真意の見えない笑顔っぽい顔も、たまに温度を失くす瞳も、筋肉だけを動かしたようなお面みたいな表情も。
そこまでは言ってないけど、周りの「断るんかてめぇ」的な視線も無視して俺はちゃんと断った。断った、はずなのだが。めげない彼はこう言った。
「そっか。両方ダメなら、そうだな。…一回デートしてくれない?」
「………は?」
は?
そうとしか言葉の出ない俺とは違って元気なクラスメイトの皆さんは一斉に「きゃああああっ!!」と叫んだ。うるさかった。すごくうるさかった。憧れの転校生くんが一介のモブたる俺に付き纏い、挙句の果てにデートのお誘いをしたのだからそりゃ驚くのは分かる。俺も驚いてる。マジで、全く、どうしたって意味が分からん。
「いやぁ、聞き間違えたんかなぁ」
「………」
エアーあごひげを撫でつけながらぼうっと空を見上げるも、雲が流れるだけで何の返答もなかった。
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