mitei あづみとみやと | ナノ


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今日も今日とて、登校するだけで恋人繋ぎを五十回は見た。いや五十回は言い過ぎた。でも体感でそんくらいは見た気がする。
ホント、今日もみなさんピンク色の青春を送っていらっしゃること。別に羨ましくなんかないけど。そう思うだけで別に弊害はないのでまぁよしとする。

そうしてそんなこのピンク色の学園に、ちょっと季節外れの転校生がやってきた。
二年生になって初めての、珍しい転校生。しかも同じクラスだとか。

その日は朝から、いつも賑やかな学校がいつもよりざわざわしていて、やけにそわそわきゃっきゃしている生徒が多いなとは思っていた。あづみが廊下を歩いている時の反応に似てるがそれだけでなく、あちこちで噂話をするようにこそこそ話す生徒も多い。転校生が来るっていうのは数日前から先生に言われて知ってたんだけど、その関係かな、と俺は一人首を傾げた。

そうして朝のホームルーム。その転校生くんが教室に入ってくるやいなや、あちこちから抑えてはいるものの黄色い声や溜め息が漏れる。いや、あんたら大体恋人いるんじゃないの。見惚れるのはオッケーなのかな。

そんな生徒たちの反応も参考にして言えば、転校生はキリッとした瞳が印象的なイケメンくんだった。背は標準くらいだけど、頭身が標準とは違う気がする。腰の位置が高い。つまりは脚の長さが、同じくらいの身長の奴よりも幾分か長いのだ。

「どこから来たの?」

「恋人は?」

「部活決めた?」

休み時間になるとあれやこれやと質問攻めにあう彼は、ちょっと遠い席から見てもやっぱりキリッとしてて隙がなかった。てか恋人いるのかってさらっと聞いた奴すごいな、さすが恋愛至上主義な学園…。そんな質問にも彼は笑って「今はいないよ」と答え、「今は」という部分に周囲が色めき立つ。ほぁー。
スタイルが良ければ顔も良い、ついでと言っては何だが愛想も良いと評判になった彼は瞬く間に学園中の人気者となっていった。だろうなぁ。

しかし常日頃からこれでもかとあの無気力毒舌美形を見慣れてしまっている俺は、転校生の容姿に関しては特に何も思わなかった。そもそも比べること自体とても失礼なことは重々承知だが、俺はあづみの方に好感が持てる。そりゃそこそこ付き合いのある友達という欲目もあるだろうけど何ていうか、転校生くんの方は、あんなにいつも笑顔で疲れないのかなとか思ってしまう。俺にはあのにこにこ笑顔が本当の笑顔には見えないのだ。

あの笑顔は、転校してきて慣れない土地で周りに馴染もうとする彼なりの姿勢なのかもしれないし、それはとてもすごいことだと素直に思う。もし自分だったら緊張してしまってあんなににこやかに皆と話せる自信がない。本当にすごいとは思うよ。

でも俺は、無気力で表情筋がほぼ仕事しないあいつの方が好ましい。あくまでも個人の見解だけど。
無気力ながらも、たまに毒を吐きながらも、クリームパンを奪いながらも、周りなんか知らん精神で我が道を行くあいつは清々しいしカッコいい。見た目の話じゃない。あの姿勢が俺は羨ましい。見ていてはらはらするし心配にもなる時も多々あるし巻き込まれることもあるが、それでもだ。そんなあいつがたまに、ほんのたまぁに見せる笑った顔は何だかホッとするし。

でもいつだったか、違う外見なら違う見方になる、みたいな話をしてたっけ。もしかしたら俺もその一人かも。もし違った外見でも俺が言い寄ってやるとは言ったけど。言ったけどさ。
でも本当にあづみが今のあづみとは全く違う見た目をしてても同じように思えるかは分からないし自信もない。言ったらあづみは怒るか拗ねるかもしんないけど、あの容姿含めて俺は好きだ。

やる気のない淡い瞳も触ると結構柔らかい癖っ毛も、身長差を馬鹿にするみたいに撫でてくる手も。今のあづみが好きだ。たまに、いやよく腹立つこともあるけど。

感情の出し方が不器用なとこ。
何だかんだ言いながらいつも呼び出しに応えて、ちゃんと自分の気持ちを話す誠実なとこ。
クリームパン好きなくせにいつまで経っても食べ方が上達しないちぐはぐなとこ。
俺を見る瞳。一緒にいて楽しいって、口よりもずっとずっと煩く伝えてくれるばか正直なあの瞳。

…こうして考えてみると俺って結構あいつのこと好きだな。何か恥ずい。あづみも俺と同じくらい…とまではいかなくてもいいけど、あいつも少なくとも俺の十分の一くらいは同じように思っててくれたら嬉しいなぁ。ないだろうけど…。

「………くん」

俺はあいつのことものすごい大事な友達と思ってるけど、あいつは俺のこと、たまに甘いものくれる昼寝の枕くらいにしか思ってないかもしんない。そう思うとちょっと切なくなった。

「みやとくん」

「え、あ?」

「みやとくん、だよね」

「あ、はい。そうですけど…?」

ぼうっとしていたから反応遅れた。見上げると、そこにはにこりとあの隙のない笑みを張り付けた転校生くんがいた。

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