今日こそは雲一つない青空、爽やかな晴れである。いやちょっとだけ嘘吐いた。二、三個は雲あるわ。でも概ね青空だし、晴れという晴れなので良しってことで。
そう、例え周りの空気が不穏でもね!
「いやぁ、転校手続きの日さ?たまたま、本当にたまたまあづみん見かけたらさ!何と笑ってんの!しかも人に向けてよ?そんなんビビるしめっちゃ興味湧くに決まってるっしょ!あ、この学校にあづみんいるのは後で知ったから別に追っ掛けてきた訳じゃないんだけどねぇ」
「なんでまたてめぇがここにいるんだ…?説明しろみやと?」
「ひぇっ」
楽しそうにペラペラ喋る転校生くんに、またまたズゴゴゴゴ…と魔王のオーラを放つあづみんに、そのオーラと圧にビビる俺。説明と言われましても…。
「あー、いてててて。なぁんか肩が痛いなぁ!まるで誰かに蹴り飛ばされたみたい…。う、記憶が…!」
「…ほら、こんなこと言われたらさぁ」
「チッ」
あっ、舌打ちした。そんな子にはクリームパン分けてあげませんよ!
「心配しなくても、教室ではみやとくんに話し掛けてないしこんな風に言い触らしたりもしないよあづみん。安心して」
「てめぇがここにいる時点で安心できねぇ失せろ」
「あづみん口悪ーい」
「あ?」
「こらこらこらやめなさいってば二人とも」
転校生くん、全然キャラ違くない?と戸惑ったのも最初だけ。教室やその他では今まで通りのきらきら何考えてんのか分かんない笑顔だが、たまに、ほんのたまにこうして屋上で三人で話してる時だけは本物の笑顔になるらしい。
不機嫌なあづみんには悪いが、俺はそんな時間も結構楽しい。
「やっぱりあづみと中学でも仲良かったんかな…」
「いやいや、中学ん時と今とじゃ全然別人だからこいつ!みやとくんがいるからだよ」
「早よ失せろや」
「あはは!ね、ここは本当に居心地が好いねぇ。ね、あづみん」
「………」
「みやとくんの隣は、空気が澄んでる気がするなぁ!」
転校生くんがそう言った瞬間、またひやりと空気が震えた気がした。あづみさんのおこである。俺の膝に頭を乗せて無視を決め込んでいた彼が目を開けた瞬間、俺もちょっとひやっとしちゃった。相変わらず慣れないこの元ヤンモード…。
「おれ以外立ち入り禁止。さっさと失せろ」
「膝枕されながら言われてもなぁ…。まぁ、みやとくんも満更でもなさそうだからいいか!これからも見守らせてね」
「いや、結構です」
「また来るね」と言って去っていく転校生くんを見もせず、俺の膝を枕にあづみはまた目を閉じた。昼の風は夜の風よりちょっとだけ強く感じる。屋上だからかな。
「なぁあづみ」
「んー?」
「元ヤンてこととか、俺に知られたくなかったりした…?」
「別にどうでも。お前どうせ気にしないだろうし」
「まぁ、そうだな。蹴り飛ばしたのはびっくりしたけど」
「あれはあいつが悪い。あと…」
瞼が上がる。光を湛えた瞳が真っ直ぐ俺を見据えて捕らえた。腕が伸びてきて、綺麗な指先がするりと俺の頬を撫でた。
「おれ以外に、触らせてんじゃねぇよ…」
へぁ。
「ほんと………誰だお前。変わりすぎじゃん」
「おれはずっとこうだよ。隠すのやめただけ」
「隠してたんだ」
「まぁね」
「どっかの馬鹿が怖じ気づかないようにね」なんて言うけど本当は、自信無かっただけなんじゃないの。だなんて言葉は飲み込んで頬を撫でる指先をきゅっと捕まえ返した。ざまぁ。
「そんな風に外堀から囲い込むようなことするくらいなら、最初から俺にぶつかってきたらいいのに」
「なに、偉そうに。そしたら受け止めてくれてたの」
「いや分からんし今でも自信ないけど」
「あ?」
いや元ヤンモードで見上げてくんのやめてよ…。カッコいいとか思っちゃった俺も結構だよ。でも。もし初めから彼が自分の気持ちを隠さずに俺にぶつかってきてくれてたら。そしたらきっと、俺は…。
「一緒に悩んだり考えたりはできるよ。少なくとも、そんな泣きそうな顔見ちゃったらさ」
「………泣いてねーし。ばかじゃん」
「そうだな、お前より多分マシ」
「はぁ、あほらし…。そんなに言うならもう全部曝け出すよ。文句ないよな?」
「いや、出来れば小出しにしていただけると」
「受け止めてくれんだよな」
「無理かもって言った」
「いけるって言ってたよ」
「あの、前言撤回…」
「撤回を撤回」
「あぁ、もうー!」
「ちょろみやと」
「うるせー」
クリームパン泥棒はあれでも謙虚にしてたらしい。そう悟った時にはもうとっくに遅かったみたいだ。風に揺れる金糸を撫でながら、奪われてもいいように今度は二つクリームパンを買おうと決意した。
こいつは多分、俺の食いかけしか食べなさそうだけど。
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