てくてくと、歩幅は違うはずなのに同じスピードで歩きながら今日の出来事を整理していた。そういやいつも歩くスピード同じだった気がする。合わせてくれてたんかな。ちょっと自分の方が足が長いからって。こんにゃろ。
すぐに追い越してやる…!
「…あいつの言った通りだな」
「え、なにが」
沈黙を破ったのはあづみの方だった。彼は俺の方は向かず、じっとアスファルトと見つめ合ってる。
「面倒なのに捕まりやすいんだ、みやと」
「はぁ…」
まぁ確かに。いやどうかな。
「捕まえたのは俺の方だったりして」
「は?」
にやっと笑うのとほぼ同時に、あづみがやっと俺を見た。「何言ってるんだこいつ」とお顔に書いてあるのが暗くても分かる。
「俺はさ、お前が言ってた通り好き嫌いはっきりしてんの。そんな俺が、お前とはずっと一緒にいたいって思ってるんだよ。…例えクリームパンを盗られても」
「いつまで根に持つんだクリームパン…。いや、そうじゃなくて。…そうだな、捕まったのはおれの方かも」
ふふっと声を漏らして笑ったあづみは、俺の顔を見て更に笑った。ちょっと失礼じゃない?
「ふふ、あはは、こんなぼんやりした馬鹿に…ふふっ!おれ、捕まったのかぁ」
「ケンカをお売りで?」
「ふふ、いや悪い、おもしろくて」
「どこが?」
夜風が吹いて、暗闇でも映える金糸が揺れた。ああ、これじゃあせっかくの笑顔が見えないなと思って空いてる方の手で髪を掻き分けると、ふと光が灯った視線とぶつかった。
あ、近いな。
ちゅっという音もせずに離れていった顔をぼうっと見つめる。そう言えば、突き飛ばそうとは思わなかったな。ゆっくりゆっくり近づいてきたのは、ちゃんと俺が嫌なら拒否できるようにだろう。無駄なお気遣いどうも。
「…お前があんなに嫉妬深いなんて知らなかったよ」
「そう?」
「うん」
「みやとくんは本当鈍いなぁ」
「んだと。でも、そうかも」
「素直だな」
「まぁね。あづみんと違って」
「あっそ」
あれ、怒らないんだ。あづみん呼び嫌なんだと思ってたんだけど、怒られる気配は無い。それどころかちょっと嬉しそうですらある。ほわい。
「あづみんつっても怒らんの?」
「みやとなら別に」
「へぁ」
「みやとの名前も、呼んでいいのはおれだけだからね」
ほぁ。
出たよ全方位ヤンデレ彼氏面。いつの間にこんなんになっちゃってたんだ。最初から?いやそんな訳ないか。
…ない、よな?
困惑する俺をよそに、「それからね」とあづみは付け足した。
「みやと以外におれの名前呼びも、許したことないよ」
「そ、そこまで…」
「言ったろ。面倒なんだおれは」
「確かに」
「否定しろよ」
「自分で言ったくせに理不尽…」
でもまぁ、飽きなさそうだし。
何だかんだ俺も結構、いやかなり満更でもないみたいだから、どうしようもない。
別に学園の雰囲気に染まった訳じゃないもんね。そう思っていたら。
「みやと…あのさ」
「なぁに?」
「プロポーズ先越されるとは思わなかった。正直ちょっと悔しい。てことで、卒業後も覚悟しといてね」
「なんの?」
「おれも結構根に持つからね」
「なにを?」
マジで、なんなんこのクリームパン泥棒。そもそもプロポーズなんかしたっけ?そっちが根に持つってんなら、俺も一生いじってやるからな。
…あ、もしかしてプロポーズって、これのこと?
嘘やん。
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