mitei あづみとみやと | ナノ


▼ 9

結局転校生くんの怪我は大したことはなかったらしい。一安心。

あれから何だかんだキレて拗ねて渋るマイベストフレンドを連れて、転校生くんを保健室に連行して。怪我は軽い脱臼と判明した。それでも俺は「いやいやいや」という感じでずっとあわあわしていたんだが、意外にも転校生くんはけろりとしていた。それから保健室の先生が会議で出て行ってしまってから、静寂が包む。

分からないことだらけでずっと俺の頭は煙が出てると思う。まずそもそも転校生くんが俺を好きというのも分からんし、キスされそうになったところでガチギレあづみが登場したのも…いやちょっと嬉しいとか思っちゃったけど…意味分からん。あづみがここまで怒ってるの初めて見たし、何ならあれからずっと離されない手ももう気にならなくなってきている。嘘吐きました。そこもめっちゃ気になるポイントです。

しかし俺のそんな諸々の疑問は、転校生くんのとある暴露で吹き飛んでいった。

「え、元ヤン仲間…!?」

「そー。だからこんくらいの奇襲とか怪我とかは慣れっこっていうか」

「仲間じゃない」

え?えっ?

「えぇ、よくつるんでたじゃん?寂しーなぁあづみん」

「変なあだ名で呼ぶな。というか、お前が勝手に話し掛けてきてただけで、別につるんでない」

「またまたぁ。あ、こいつとは中学が一緒でさぁ。こいつこんなでしょ?愛想無いし、よく絡まれてはぶん投げてたよね」

ぶ、ぶん投げ…?

「知らねぇ」

あづみが元ヤン…。というか二人は同中で、仲良しさん…?

「仲良しさん…?」

「違うっつってんだろ」

「あだっ!」

俺がぽつりと呟いた一言に素早く反応したあづみんに、ベシッとデコピンを食らわされてしまった。でもこんなの、さっきの蹴り?に比べたら全然かわいいもんだよな…。とまた思い出してしまう。まだちょっと不機嫌さんなあづみんもといあづみくんは、相変わらず俺の手を離そうとしなかった。子どもか。

「ゴメンなぁみやとくん。本音言うとさ、こいつ…あづみが可愛がってるっていう子がどんな奴か見てみたかったんだよねー」

「気安く呼ぶな、あと別に可愛がってない」

「へ、えぇと、情報が多いです…?」

俺ってあづみに可愛がられてたの?クリームパン盗られたのに?というか転校生くんが俺の名前を呼ぶ度にあづみがキレるのはなんなの?後方どころか全方位彼氏面同担拒否勢なの?いやいや君、今までそんな感じ無かったじゃん?俺が鈍すぎただけ?

「いやぁ、実はオレみやとくんのこと、まだそんな好きってワケじゃないんだ。ゴメンね!」

えぇ。…知らん内に俺がフラれた感じになった。
しかしそれに腹が立つ前に、あづみの自由な方の手がガッと転校生くんの制服を掴んで俺はまた慌てた。

「呼ぶなっつってんだろ…」

「わぁああ!胸倉掴むな落ち着けあづみ!まだ一応怪我人だから!」

「そういうとこ変わってないなぁあづみんはー」

「あづみん呼ぶな」

何か、情報が多いけど…。でもちょっと腑に落ちた。転校生くんは実のところ俺のことが好きな訳ではなくて、あづみといつもつるんでる奴がどんなのか知りたかっただけ。あと多分、ちょっとからかわれたっぽい。それなら今までの俺への態度にも納得だけど…。なるほどけしからん。じゃあもしかして、あそこでガチギレあづみが出てくることまで予想して…?
だとしたら俺、本格的にこの人のこと苦手だわ…。

「そんなカオしないでよみやとくん。オレ、これから結構君のこと好きになれそうなんだよね」

「「は?」」

「あ、待って二人してキレないでゴメンて」

「はぁ…。お前の人を見る目だけはまぁ評価してやる。けど…」

俺の手首に回る指の力がほんのちょっと強くなる。
一応怪我人の転校生くんはベッドの中で大人しくしつつも、上体を起こしてあづみの顔をじっと見つめていた。襟直さないんだな…。俺も俺で大人しく手を握られたまま、いつになく真剣な横顔を見つめた。

「二度とみやとに手を出すな。あと名前も呼ぶな。というか視界にも入れるな。というかもっかい転校しろ」

「ちょいちょいちょいちょい!ヤンデレ彼氏かお前は!!」

こんなシリアスな雰囲気で、一体どんな真剣な話すんのかと思ったら…!

「…みやとうるさい」

「俺のことなのに理不尽!」

「あはは!こんなあづみ見たことねぇー!あ、いてて…」

どうしよう。今まで結構知ってると思ってた親友の、全然知らない面見つけちゃった。元ヤンがどうとか関係無くて、いやそれもびっくりなんだけどもっとこう、何て言えばいいのか…。俺のことでこんなにキレたり心配してくれたりする姿を見て、さっきとは違う感じで胸がぎゅっとなった。なんだ、これ。

「みやとくんも面倒なのに捕まったね」

「おれの今の言葉もう忘れたか?全身の骨折るか?」

「待った、話が進まんからあづみはちょっと黙ってて!!」

「あっはは、中学ん時と別人じゃん!前言撤回、やっぱ変わったわお前!」

あ、その笑顔は本物っぽい。
あづみと話してくうちに、張りぼてみたいだと思っていた転校生くんの笑顔もいつの間にか本当の笑顔に変わっていったような気がした。すごいなこの人。
ついさっきあづみに蹴り飛ばされたとは思えないメンタルとフィジカル…。でも俺は、こっちのがまだ好ましいかなと思った。苦手ではあるけど。

「安心しなよあづみん」

「あづみん呼ぶなや」

「ガチでキレたお前怖いし、もうみやとくんには手出さないからさ。でも同じクラスだから視界に入れないってのは厳しいなぁ。あとやっぱ仲良くしたい」

「………みやと」

てっきり俺が入る隙もなく、あづみがきっぱり断るのかと思ってた。けど彼はゆっくり俺の方を向くと、俺の意思を確認するみたいに瞳を覗き込んでくる。ううん、ずるいなこいつ。
こんな風に尊重されてるみたいな態度されるとさ、またきゅってなるじゃん。こんにゃろ。クリームパン泥棒のくせに。

二人ともじっと俺の返答を待って視線を向けてくるから俺は噛まないようにちょっと口をもごもごさせて、何とか声を絞り出した。そんな見られると恥ずかしいぞ、なんか。

「…まぁ別に、たまに話す、くらいなら」

「ありがとう!騙してゴメンね、これからもよろしくみやとく、ぐっ!」

「馴れ馴れしくすんな」

「こらこらこら怪我人殴るな!大丈夫か!?」

「大丈夫…。でもこれからは、あづみんがいるとこで…仲良くしてね…後が怖いから」

「あ、うん…」

お大事に…。
外はそろそろ暗くなる時間。部活をしていた生徒も下校しなきゃいけない時間になる。
俺は本当に大丈夫なのか何度も確認しながら、へらりと笑う転校生くんを家まで送り届けた。もちろん闇の支配者…ならぬ元ヤン全方位ヤンデレ彼氏面のあづみん付きである。属性過多じゃん。

それにしても転校生くんも爽やかな部類かなと思ってたんだけど、結構ケンカ慣れしてるのかもしれない。それとも心配させまいとしてるのか、俺の心配に対して終始「大丈夫大丈夫、これでも加減されてるからさ!」とフォローになってんのか微妙な返答をしていた。加減…してたのか。吹き飛んだけどな…。ていうかやっぱり情報過多だ。

転校生くんを無事に送り届けた後、しばし無言で二人で歩く。手首はもう握られてなくて、代わりに指と指が絡まっていた。これは俺が通学中に何十回と見てきた恋人繋ぎにとても似ている。

…いや、なんでやねん。

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