「好きです、オレと付き合ってください」
「嘘やん」
嘘やん。いや
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まだ帰り始めてもいないのに?下駄箱で?いやそこじゃない、そこじゃないな。どういう状況?
この辺り一面ピンク色の学園で、俺は今まで恋人ができるどころか告られたこともなかった。はずだった。それが今、どういう訳か告白のようなセリフを聞いた気がする。あ、幻聴?それとも聞き間違いか?
「転校の手続きで初めてこの学校来た時、みやとくんに一目惚れしたんだ。それから同じクラスになって嬉しくて、鬱陶しがられてるの分かってても話し掛けずにいられなかった」
「いや………嘘やん」
「本当」
嘘やんしか出てこない。でも俺の名前出てきたから人違いでもないっぽい。
でも、でもさ…。俺が仮にこの転校生くんの好きな人だったとして、いやたった今告られたんだけど、それを一旦信じるとして。そんなら俺が感じてきた俺への態度は一体…?あれが好きな人に向ける顔…?俺が素っ気なかったから?いやそんなんじゃなくて、何というか…。違和感がずっと残ってる。でも目の前の転校生くんはいつもと同じにこにこ笑顔で、やっぱり真意は見えない。
俺が好き?一目惚れ?この、俺に…?あづみじゃなくて?ん?んんん?
「いきなりでびっくりさせたよな、ゴメンね」
「うん、かなり。でも、なんで…」
「なんでって?あぁ、まだ自分の魅力に気づいてないんだみやとくん。そういうとこもいいな」
びっくりしたままで固まった身体に一歩、また一歩と転校生くんが近づいてくる。何をする気なのか、右手が伸びてきて…俺の左頬に指先が触れて。
俺の思考は冒頭の一言を処理するのに忙しくて、近づいてくる顔をぼうっと見ることしかできなかった。近いな。いつも教室で話してる時より大分近いな?そうして息が近くなり、何をされようとしているのか漸くハッと分かったところで反射的に俺の手が動く。
「みやとくん…」
「待っ…こんの…」
だけど俺の両手が転校生くんの身体を押し退けるより数瞬早く、彼の身体は横に吹っ飛んだ。
真後ろじゃない。横だ。絶対自分で移動した動きじゃなかった。ていうか多分、すごい音しなかった…?心配になって転校生くんが吹き飛んだ方を見ると、彼は肩をおさえて「うっ…」と倒れていた。え、いやいやいや、え…?大丈夫?じゃ、なさそうですが…ほ、保健室?てかあれ、何か突然寒い…?気のせい…?
ひやりとした空気は転校生くんが吹き飛んだのと反対側から感じた。恐る恐る振り向くと、そこには見慣れたはずの、なのに見慣れない姿が立っていた。その目を見て、背筋が凍る。
こんなあづみ、見たことない…。
俺の右には呻く転校生くん、左にはほぼ闇の支配者っぽい俺のベストフレンド。
もしかして…あづみがやった?いやもしかしなくても絶対そうでは。あづみが転校生くんを吹き飛ばした…?
どうして…。
「うっ…いってぇー」
「あ、大丈夫?保健室、おぁっ」
「みやと」
俺が転校生くんに駆け寄ろうとすると、手首を掴んで止められた。その先には相変わらず魔王みたいな顔をしたあづみが居る。纏う雰囲気は怖いのに、俺を掴む手は痛くない。表情は無いのに、瞳は迷子みたいに見えた。
「みやと、そっちいかないで…」
「でも、それどころじゃ」
「いかないで」
ぎゅっと、手の力が強められる。痛くない、なのにこの顔を見ているだけで胸がズキズキする。意味分からん。
何でこのタイミングでお前が出てくんの。何でそんな怒ってんの。何で、キスされそうになった俺より怒ってんだよ。
人蹴っ飛ばしちゃうって相当だよ。学校に知られたら良くても停学だよ、きっと。なのになんで。
「いったた…。邪魔されんだろうなとは思ってたけど、こうも直球で来るとは思わなかった…いてっ」
「え、起きて大丈夫!?というかえ?知り合い?あ、保健室」
「大丈夫だよーみやとくん。今のはオレも悪かったし」
「名前で呼ぶな」
「あ、あづみさん…?」
相変わらず俺の手を掴んだままズゴゴゴゴ…と闇のオーラを纏うあづみは、今まで聞いたこともないような、地を這うような低い声で呟いた。
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