mitei 眩しいきみを見てる。 | ナノ


▼ 【番外編】桜ひらひら

ひらひらと、舞い落ちて。

空中でくるくると舞い踊っては地面に吸い付いて、たまに風で舞い上がったりなんかして視界を鮮やかに彩るそれは、この季節の代名詞とも言える。

陽の光を浴びて一層輝かしく地面へと落ちていく花びらは一見眩しく見えるけれど、彼らは光は反射しない。その代わりに一枚一枚が薄く光を透過して、その向こう側にある太陽の光をたまに遮っては光の筋を出現させる。
その中で忙しなく光と遊んで踊って、ひとつの季節の訪れを告げる光景。

あぁ、これに似た光景を俺は良く知っている。
ひらひらと舞い踊って、空中で輝いて、そして消えていく。

ただ違うのは桜の花びらは消えずに地面に残るということ。一年に限られた時期しか見られないこと。花びらには薄く色が付いていることと、それ自体は光を反射しないこと。
そして、桜の樹があればどこででも見られること。

しゃがんで、地面に落ちたひとつをそっと拾い上げる。…そっか、あいつ以外が触ることが出来るのも違うところか。

拾ったのは花びらではなく花の形のまま地面に落ちていたもの。これはきっとスズメの仕業だろうなぁ。

灰色のアスファルトを一面ピンク色に彩る桜。俺はこの春の代表的な景色が好きだし、とても綺麗だと思う。綺麗だと思う、けど…。

「俺の方が好きだと思ったでしょ?」

「うわっ!いきなり現れるなよ!」

吃驚したぁ…。背後から突然声が掛けられて振り返ると、楽しそうに少し細められたダークオレンジの瞳と目が合った。相変わらず色素の薄いこいつの髪が、風に揺られてさらさらと揺れる。
同時に、纏うきらきらも風に流されては消え、また現れては消えていった。

「ふっふふ、どきどきしてる?」

「驚いたからだよバカッ」

「ね、さっきの当たりでしょう?」

「…何が」

「だからさ、桜より俺の方が綺麗で好きだなって思ってたでしょう?」

「語弊がある。確かに桜が舞い散ってるのも綺麗だけど、似たような光景で見飽きたなって思ってたとこ!それに好きとまでは…」

「でも、好きでしょ?これ」

「これ」と言って白石は手の平を何かを掬い上げるように持ち上げ、俺に良く見えるようにゆっくりと傾けた。真っ白い手の平から、さらさらと砂のような水晶の粒のような輝きが零れ落ちていく。
ひらひらと舞い踊って、空中で輝いて、そして消えて。

桜の舞い散る光景と似てはいるけれど、これはこいつにしか作り出せないしこいつと居なければ見ることが出来ない。
あぁ、やっぱり俺は…。

「…こっちのが好きだなぁ」

ポロリと本音が零れ出た。間髪入れずに白石が返す。

「ありがとう俺も愛してる。挙式はどうする?海外?」

「お前じゃねぇよ、こっち。きらきらの方」

「え、このきらきらと結婚するの?でもこれは俺の一部だからそれって必然的に、」

「あぁもぉいいよバカッ!単純にこっちのが綺麗だって言いたかっただけなのに!というか、別に言うつもりも無かったのに…」

「そういう素直なところも余りにも愛しいんだけど俺は一体どうしたら良いの?とりあえず抱き締めたら良いのかな?良いよね?」

「とりあえず黙れ」

持っていた桜の花をそっと地面に戻して俺は再び歩き出す。すると何とも自然な動作で白石も俺の隣に並んで歩き出した。

相変わらず白いこいつは、ふふっと楽しそうに俺に笑いかける。きらきらと、眩しい。

今日も当たり前のようにすぐ傍に居る輝きに眩暈がしそうで、俺は反射的にふいっと顔を逸らしてしまった。すると。

「ふふっ、桜色だね」

一段と嬉しそうな声音で白石が囁いた。けれど前を見てもさっき程花は散っていない。桜並木を抜けた今目の前に広がるのはいつもの灰色のアスファルトだというのに、こいつがどこを見てそんなことを言ったのか俺は深く考えないことにした。

「なぁ」

「ん?」

「いや、やっぱり何でもない」

言いかけて、止める。すると代わりに白石が立ち止まって、俺を呼び止めた。

「ねぇ」

「…何だよ」

少し気が進まないまま振り返る。その瞬間にふわりと暖かい、春らしい風が吹いた。

「好きだよ」

さっきまで歩いてきた桜色の中心に、きらきらを纏って一段と輝く白い彼。
そして相変わらず柔らかな温度を俺に向けてくるダークオレンジの瞳と、またぱちりと目が合う。

「っ!…もう、しつこい」

「ふふふっ、やっぱり桜色だ。…綺麗だね」

こいつの方向からは桜なんて見えない癖に、白石はそう呟くとやっぱり嬉しそうに微笑むのだった。

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