mitei 眩しいきみを見てる。 | ナノ


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雲間から柔らかな日が差し込む午後の授業中、俺は眠気に耐えながら教師の話を聞くともなく聞いていた。
斜め前の彼は、今日も変わらずきらきらしている。きれいだなぁ、やっぱり。
何故きらきらしているのかとか本当に俺にしか見えないのかとか、考えても分からないことは放置して俺はもはやこの光景を楽しむようになってきた。

白石くんに直接聞けばいいのかもしれない。しかし何て聞けばいいのか分からない。
「何故きらきらしてるの?」とでも言えばいいんだろうか。今までろくに会話したこともないのにハードルが高過ぎないか。俺の友人たちみたいに違う意味で捉えられたら面倒だし、そもそもあのきらきらが白石くんにも見えているのかも謎だ。

じゃあ、「白石くんの周りのきらきらって白石くんにも見えてるの?」とでも聞こうか。これはもし彼にも俺と同じものが見えている場合は問題無いだろうが、そうでなければ俺が変なやつに思われる可能性がある。もし俺が逆の立場で同じことを聞かれようものなら何言ってんだこいつって思うし、今後聞いてきた奴を警戒してしまうかもしれない。

いやしかし、聞こうとしていることがことなだけにどのような聞き方をしても結果は同じかもしれない。

今の状態で害があるわけではないので放置していても問題は無いだろうが、少なからず気にはなるものだ。

現状維持か、原因究明か…。

「じゃあここ…浜坂。答えて」

「えっ、あ、はい!」

俺がぼうっとしているのに気づいたのか、突然名前を呼ばれ困惑した。やばい、今どのあたりやってたんだっけ…。話を全く聞いていなかったので解くべき問題がどれかも分からないし、問題が分かったところで解くのも時間がかかりそうだ。

「どうした?浜坂ー。お前やっぱりぼーっとしてたんだろ?」

あああぁぁやばいやばい。あの数学の先生は出してくる課題が面倒くさいことで有名だ。数学のテストはそこまで悪くなかったけど目を付けられたらこれから面倒だなぁ。

俺が答えに詰まってあたふたしていると、ふと斜め前のきらきらが不自然な動きをしだした。今までは風に揺られて舞い踊るような動きしかしなかったそれが、重力に逆らってうようよと生き物のように動いている。
何事かと目を凝らしていると、やがて文字のようなものが浮かび上がった。
何だあれ…。数字の四と、えっくす…?

「浜坂ぁ!答えられないなら後で、」

「4x!4xです先生!」

思わず目の前に浮かび上がった回答を叫んでしまった。謎の光の粒たちはふよふよと彼の頭上に浮かんでいて、はっきりと読み取れる文字を形作っている。

「…正解だ。何だ、ちゃんと聞いてたんじゃないか」

どうやら正解だったようだ。助かった。
俺がふうっと溜め息を吐いて席に座ると、きらきらの文字はさらっと解けて何事も無かったかのように再び彼の周りを漂い始めた。
何が起こったんだろう。まさか、答えを教えてくれた、とか…?

まさか彼はあれを自在に操れるのか?というかあれってやっぱ俺の見間違いとかじゃなかったのか?ちゃんと文字になってた…よな。

操れるということは彼にももちろんあのきらきらが見えているということだ。そしてそれを使って答えを教えてくれたということは、俺にも見えていることが、分かって…?

駄目だ益々分からない。どういうことなんだ白石くん!これはもう、彼に直接問い詰めるしかないようだな。

とは言え今まで一度も話したことないし、正直少し怖い。

学校中の生徒の憧れでありアイドル的存在の彼だが、人とまともに会話しているところを見たことがない。よって彼の性格に関しての明確な情報は無い。

儚げな見た目や上品な仕草からクールだとか優しそうだとか繊細なのだろうとか勝手な憶測が飛び回りはするが、真偽のほどは定かではないしほとんどが妄想にすぎない。

先生や事務員さんへの態度は真面目で礼儀正しく優等生そのものだが、生徒にはどうなんだろう。一度彼に直接告白をした強者が「綺麗な見た目が好きなら人形にでも告ってれば」と非情にもばっさり切り捨てられて泣いて帰ってきた、という噂は聞いたことがあるけれどそれも本当かどうか分からない。振られた腹いせで悪く言うこともあるかもしれないし。

そもそも直接話したこともないのにどこの誰が流したかも分からない噂を信じるなんて馬鹿げてる気がする。実際に話してみなきゃ分からないだろうし、それにもし先程のきらきらで俺に答えを教えてくれたんなら、それなりに優しい奴なんじゃないだろうか。

どちらにせよ、このままでは分からないことが多過ぎるのでやはり直接彼に聞くしかなさそうだ。さっきのお礼も言いたいし。

…マジで妖精の類いとかだったらどうしよう。


「白石くん、ちょっといい?聞きたいことがあるんだけど」

善は急げ。ということで早速放課後彼に声をかけてみた。
俺が呼び掛けると彼は素直に顔を上げ、ダークオレンジの瞳をこちらに向けた。

俺が白石くんの名前を発すると帰ろうとしていたクラスの連中がざわっと驚きだし、ちらちらとこちらを窺い出したが気にしない。友人たちも心配そうに俺に視線を向けている。白石くんに話し掛ける奴が珍しいのだろうが、そんな反応は想定の範囲内だ。

それよりも気になったのは、俺が話し掛けた瞬間ぶわっときらきらが増殖した…ように見えたこと。とは言えそれは一瞬だけで、暫くすると平常時の量に戻っていた。

話し掛けられた白石くんはというと無言で俺の顔をまじまじと見つめるのみで、その表情からは何も読み取れない。周りのクラスメート達も帰る足を止め、「何事だ?」「あいつ話し掛けたよな」「かつあげ?」「呼び出し?告白?」なんてざわざわと勝手な憶測を飛ばし合っている。
聞こうとしている内容が内容なこともあって、ここじゃ落ち着いて話が出来ない。俺が「移動しよう」と口を開きかけると、先に薄い唇が開いて俺に応えた。

「…鞄持って。移動しよう」

おぉ…。想像していたよりもずっと低くて澄みきった声だ。その儚げな見た目からもっと高くて中性的な、子供らしい声を勝手に想像していたが彼も男子高校生。声変わりなんてとっくに終わって喉元には男らしい喉仏がしっかり出ている。
にも関わらず、彼の低く響き渡るような声はやはりその見た目から想像されるものより少し意外で、教室中の誰もが聞き惚れた。

ぼうっと突っ立っているままでいると彼に教室から出るように視線で促され、俺は慌てて自分の鞄をひっつかんで教室から出ていく後姿に続いた。教室を出る瞬間まで背中にクラスメートの視線が突き刺さる。これは明日質問攻めコースは免れないだろうなぁ。

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