mitei 眩しいきみを見てる。 | ナノ


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斜め前の席に座る白石白人くんは、今日もめっちゃ白い。

名前からして真っ白な彼とは今年初めて同じクラスになったのだが、何しろ目立つ容姿をしているので一年の頃から彼の噂は聞いていた。

陶器のように艶やかな白い肌に、色素の抜けた白い髪。日の光を反射してきらきらと輝くその髪は銀色と言えるかもしれない。少し切れ長で大きな目を覆う長い睫毛も真っ白で、彼が目を伏せる度に雪原のような頬に影を作る。

ただ瞳の色は赤色ではなく良く見ると少し暗いオレンジ色をしていて、アルビノという訳ではないらしい。

まるでファンタジーの世界から抜け出してきたような美しい容姿に誰もが見惚れ、すれ違う度にその姿を目で追ってしまう。

その上聞いた話によると全国模試では常に上位をキープし、運動部に所属している訳でもないのに運動能力も群を抜いているという。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能と少女漫画のヒーローみたいに三拍子揃った彼は困ったほど非の打ち所がない。

もちろんそんな彼とお近づきになりたい者は男女問わず後を断たなかったが、外見もスペックも浮世離れしている彼に話し掛ける勇気のある者は居なかったらしい。

俺が知る限りでは白石くんに友人らしき友人はおらず、誰かと親しげに話している姿も見たことがなかった。

一年の頃、俺はそんな彼に対してさして興味もなく、すごい人がいるもんだなぁなんて思いながらただ客観視していた。クラスは確か割と離れていて、彼が俺の教室の前を通り過ぎるときゃあきゃあと女子が騒がしくなるからその度にちらりと廊下を覗き見たくらいで、慣れてくると俺は振り向きすらしなくなった。ぶっちゃけ白石くんが何組だったのかも覚えていない。

しかし学年が上がり同じクラスになった今、俺は彼のことが気になって気になってしょうがない。

友人から指摘される程、気がつけば彼の姿を目で追ってしまっているのだ。

授業中、休み時間、掃除の時間、放課後…。気がつけば俺の視線は彼を探し、彼に囚われていた。

見る度に思う。

何故彼はああも真っ白なのだろうかと。ブレザーを羽織る冬服の時はとにかく、夏服になって上半身が白いワイシャツだけになると本当に真っ白になる。袖のところにワンポイントで紺色のラインがあるおかげで白い壁際に立っていても彼を判別できるが、遠目から見てもやはり白い。あれなら夜道で車に轢かれることは無さそうだなとは思う。

もちろん見た目も真っ白な彼だが、名前も気になる。白石という名字は決して珍しいものではないが、白人(しろと)って。ご両親は一体どんな願いを込めてその名前を付けたんだろうか。フィーリングで付けちゃったのか?やはり彼は生まれた時から真っ白だったんだろうか。何も事情を知らない俺がとやかく言えることなどないが、とにかく白い。白過ぎる。

だが俺が彼を気にする理由はそこではない。寧ろ彼の容姿はあまり重要ではないのだ。

俺が彼を視線で追ってしまう理由。
それはきらきらしているからだ。

白石くんが綺麗な容姿をしているからだとか、相手が魅力的できらきらして見えるだとか恋の病にかかっているとかそういうことじゃない。
彼はとにかくきらきらしているんだ。物理的に。

どういうことか俺もさっぱり分からない。分からないが、彼の周りに結晶のようなものが浮いているのが見えるのだ。ダイヤモンドダストみたいな、映画館の映写機に反射する埃みたいな。そういったきらきらが彼の周りに漂っているのが見える。
一年の頃はそんなもの見えなかったのに。

見えだしたのは白石くんと同じクラスになって少しした頃。授業と授業の間の休み時間にふと、一瞬彼と目が合った。ダークオレンジの瞳はすぐに逸らされてしまったが、彼が目を伏せる一瞬にきらきらとした何かが少しだけ彼の周りを漂ったように見えた。
その時は流石に信じられなくて、教室の埃が反射したのだろうくらいに思っていた。

しかしそれから度々、同じようなものが見えるようになってしまった。授業中、休み時間、掃除の時間に放課後…。目が合ったのは最初のあの一瞬だけだったが、それ以降俺の視界にはきらきらと舞い踊るものが映り込むようになった。
謎のそれは彼の周りにだけ現れ、しかも心なしか日に日に増えているような気さえする。

ここまではっきり見えてしまうと流石に埃だとか貧血の時に見えるやつだとかで誤魔化すのも無理になってきて、友人に聞いてみたことがある。

「なぁ、すんごい変なこと聞いてもいい?あのさ、白石くんの周り、その…きらきらしてない?」

俺がおずおずと尋ねると友人は呆気にとられたような顔をして、やがて「ふはっ」と吹き出して言った。

「そりゃお前、綺麗だもんな白石くんて。分かるよ、分かるけど何か表現がさぁ…ふふっ。きらきらしてるよ確かに。男から見ても文句無くカッコいいもんな」

「いや違くて!そうじゃなくってマジで物理的にさ、周りにきらきらしてんのが飛んでるんだって!」

「分かる分かる。それぐらいカッコいいってことだろー?まさか人に無関心なお前がここまで白石くんのこと褒めるなんてなぁ。惚れちゃった?」

「だからぁっ!」

これは絶対噛み合っていない。他数名にも同じように返されて俺は確信せざるを得なかった。あのきらきらは、どうやら俺にしか見えていないらしい。

言っておくが俺はそういったあれこれが視える類いの人間ではないし、突然そういった不思議な力が開花したとかそういうことでもない。だってきらきらが見える以外は至っていつも通りだから。決してこの世にあらざるあれ的なものではない。断じてない。絶対違う。五千歩譲ってそうだとしてももっとファンタジー的なやつだと思う。
どちらかと言うとピーターパンの横にいるあの妖精が振り撒いてる粉みたいな、そんな感じのやつだと思う。あれ、じゃ白石くんも空飛べんのかな。

とにかくそういうわけで、俺は白石くんのことを目で追うようになった。というか、わざわざ見ようと思わなくても教室にいるだけできらきらが視界に入ってくるからしょうがない。不可抗力だろこんなの。この前の席替えで彼の斜め後ろの席になってしまったこともあり、授業中でも関係なくきらきらが映り込んでくるから本当に気になってしょうがない。

窓から差し込む柔らかい日の光できらきらは更に輝きを増し、一粒一粒が七色に輝いては消えていく。決して派手な光じゃないけれど、絶え間なく繰り広げられるその光景はいつまでも見ていられる気がした。

光っては消え、光っては消え…。
光の短い一生は彼の周囲でだけ幾度と無く繰り返され、儚くも美しい景色を創り出している。

彼が白いことも相まって本当に妖精がいるみたいだ。何の変哲もないどこにでもある学校の、いくつもある教室の風景の中に一席分だけファンタジーな世界が広がっている。

…白石くんって指輪を返しに行く物語に出てても違和感無さそうな見た目してるし、実は妖精でしたとか言われても不思議ではない。いや実際そう言われても困るのだが。

とにかくこのきらきらが見えているのが俺だけなんてもったいないくらい、不思議で面白い光景だ。

夕暮れの入道雲とか、路地裏から見える青空とか、ドレッシングの中の雲海とか。
もはやこの光景も、そういう日常の中に溶け込んだ絶景のひとつみたいな。

ドレッシングの中の雲海って何?と思った人は今度振らないでピ○トロドレッシングの中を覗き込んでみて欲しい。分離したところをよく見ると雲海のように見えて、まるで空の上にいるような気分になれる。まぁちょっと茶色いけどね。

とにかくそんなきらきらした彼から、いや、彼の発するきらきらから俺は目が離せないのだ。

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