▼ 6
真夜中というのは深海に似ているなと、ふと目を開けて考える。
いいや、やっぱり全然違うか。
身体を起こしてすぐ隣を見ればまるで何もなかったみたいにすやすや寝ている馬鹿がいる。
相変わらず何も詮索してこない無防備で純真で無駄に気遣いの多い馬鹿。正真正銘の天性の馬鹿。ばかだ。
もっと踏み込んできたらいいのに。
もっと怖がったり、怯えたりすればいいのに。
嘘だよ、本当はそんなことをされないことに心から安堵してる。
もし、そうされたら。きみにきっともう二度と触れることも、近づくことさえも出来なくなるだろう。だから安堵してるし、代わりに怯えてもいる。
お前が馬鹿でよかったと言ったら怒るんだろうか。それは、きみの世界の言葉でどう言えば怒られないんだろうか。どの言葉でも同じだろうか。
…またお腹出してる。
布団を掛け直してやって、頬に触れた。乾いてさらりと指先に伝う感触がやけに心地好くて、ずうっと触れていたくなった。でも起こすのは申し訳ないので、ちょっと撫でるだけにする。今日は布団に潜り込むのはやめておくね。
「…おやすみ」
額に落とした感触に気づかれたわけじゃないと思うけど、顔を離すとさっきよりも幾分か間抜け具合が増した顔があって思わずこちらの頬が綻んだ。
prev / next