mitei 海辺の拾い物 | ナノ


▼ extra story1

「会長、どうなさったんですか。先程からスマホをじっと見つめて」

「いや…どうやらバレてしまったらしい」

「と言いますと?」

スッと差し出された画面にはトークアプリのやり取りがあって、これは自分が読んでもいいものかと部下は俊巡したが、会長に視線で促されて内容を確認した。
そうして「あぁ」と納得する。

トーク画面では、途中までは敬語で丁寧な感じの文章が続いていたのに、同じアイコンで突然「直接言えや」とヤンキーみたいな言葉が乱入していた。
そこからは誰が返信したのか非常に分かりやすく、何度か言葉の応酬があった後、最後は会長の「黙っていたのは悪かった」という一言で幕を閉じていた。と思いきや、スクロールするとチンアナゴが謝るスタンプが見えた。これはきっと律儀なあの子だろうなと思わずほっこりするも会長の苦労を察して溜め息が出そうになる。

「意外と早かったですねぇ」

「予想はしていた。だがあの子と話していると興味深いことが多いし、シオの日常生活についてももうちょっと色々聞きたかったのだが」

「ううん…バレたのならもう難しいでしょうね」

「ああ。それで、人間の大学生が喜ぶ菓子折りは何が良いと思う?」

「あー、調べましょうか」



「父さんとの連絡回数のが多い」

「そりゃあ連絡来たらその分返すだろ」

「おれのは少ない」

「そりゃあいつも一緒にいるからだろ」

「いつも一緒にいるのに」

「なら隣にいても、わざわざメッセージで晩飯のメニューとか訊いてほしいわけ?」

「それは話そうよ」

「ほらぁ」

「…いつ交換したの」

「お前があの家行くようになってちょっとしてから」

「言ってくれても良かったのに」

「言ったらお前の近況送れないじゃん」

「なんで。送ればいいじゃん」

いやいやいや、絶対素直に送らせてくんないじゃん。手料理の写真だって、送ったって言ったら微妙な顔してたじゃん。恥ずかしいんだろうってのは分かるし、内緒にしてたのは悪かったけどさ。

風呂上がり、髪を乾かす間にシオのお父さんからメッセージが来たので返信してたら、背後から「誰そいつ」と低い声で呟かれたのが先日のこと。それからシオのお父さんと内緒でやり取りしてるのがバレて質問責めにあい、未だにむすっと頬を膨らませているのが今。子どもかよ。

「だからごめんて」

「許さん」

「そんなに怒った?」

「怒ってない」

「じゃこっち向いて」

「やだ」

子どもか!
頑なに顔を見ようとしない駄々っ子はフグみたいに頬を膨らませるもんだから、つい出来心でプスッと突いた。そしたらフシューッと空気が抜けて間抜けな顔がやっとこちらを向いた。
おもろかわいい。笑いそうなのを必死に堪えていると、彼はまたむっと眉間に皺を寄せて今度はじっと俺の顔から目を逸らさなくなった。
これはかわいくはない。真顔はかわいくないよ。

「もう、全然謝る気ないだろしづき」

「ごめんて、悪かったよ」

「本当にそう思ってんの?」

「思ってる思ってる」

「ほおー」

ゆらりと立ち上がった彼はにやりと口角を上げて不敵な笑みを作ったまま、狭い部屋で俺ににじり寄って来た。狭いのですぐ壁に捕まり、両腕がまた俺の顔の横に置かれた。両腕での壁ドン…。壁ドンて言葉まだ使うのかな。

「知ってる?しづきは嘘吐くときたまに二回言う癖があるんだよ」

「そうなん?知らんかった」

「冗談だよ」

「どっちだよ」

「とにかく、おれは今拗ねてます」

「怒ってるんじゃなくて?」

「拗ねてます。なので機嫌を直して欲しい」

「素直すぎる」

「あとちょっと楽しんでる」

「あまりにも素直」

どんどんと腕を曲げて俺との距離を縮めた彼は完全に楽しんでいるようだった。拗ねてる感じしない。だけど本人は拗ねてるという。いや、絶対俺の反応見て楽しんでるだけじゃん。

「で?どうすれば機嫌直るの」

「そうだな。まずちょっと背伸びして」

「えぇ」

こいつ、覚えてやがる…。
今の距離で俺がちょっとでも背伸びしたらあの時と同じになるんだけど、瑠璃色はきらきらとその瞬間を待っているようだった。

あの時は勢いもあったし、えいって感じでいけたけどこれは…。恥ずかしい。むり。でもこれで機嫌直るんなら…。いや、別に全然不機嫌そうじゃないどころか瞳がきらきらしてるんだけど、ううん。どうしよ。

「しーづーき」

「んぁー待って、ちょっと待って!急かされると恥ずかしさが増すから!」

「ふふふっ、めっちゃ楽しいかもしんないこれ」

「もう機嫌直ってんじゃん!」

「えぇ?全然。超不機嫌。ほら」

「もぉぉおお!」

ぷくっと頬を膨らませた彼はにこにこを隠しきれていないどころか、隠すつもりも毛頭なかったらしい。イラッときたから、えいって背伸びすると膨らんでいた頬が一瞬で元に戻った。
そんでまた、真顔。じっと逸らされない瑠璃色が俺を映して今度はぎらりと光った。

「よくできました」

「機嫌直ってんじゃん…」

「全然?まだまだ。でも…」

「なに」

「うん、許す。そろそろ困る以外の顔も見たい」

「うぇっ、シオ、わぁっ!」

「頑張っておれの機嫌、直してね」

「もぉおお!お前めんどくさい!」

「あははっ!」

その後自称不機嫌な彼の機嫌を取るのに大分労力を費やした。後日シオのお父さんの部下さんがお高いお菓子を持ってきてくれたことで俺の機嫌は上昇したが、要約すると「息子が苦労かけてゴメンね、がんばっ!」みたいなことが書かれたメモが貼ってあったのでそれはすぐにごみ箱にポイした。

本当にね!

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