mitei 猫に撫でられる話 | ナノ


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「おいでー。今日もかわいいねぇみんな」

「みゃあぉ」

「ふふふ」

クラスではみんなが騒ぎ出すお昼休み。ここは人気のない静かな中庭。
僕は今日も一人、密かな楽しみの場所に来ていた。

黒髪黒目、背は平均よりちょっと低め。苦手なことはたくさんあるけど、好きなこと得意なこともそれなりにある。

そんな僕の特技は動物に好かれること。趣味は猫を撫でること。
道端にいる猫ちゃんに話し掛けたり、公園で寄ってきてくれる猫ちゃんたちを撫でさせてもらったり、毎朝家の窓から顔を覗かせている猫ちゃんに挨拶したり。

登下校中のそんな僕の奇行を見て、クラスメイトたちも他のクラスの人たちもみんな僕から距離を取るようになったけれど、どうせ人とは上手く話せない僕は特に気にしていなかった。
別に、今更だし。何ともないし。

「…かわいい」

手を出すとそっと足音もなく近寄ってきては、座っている足に擦り寄ってきてくれたりゴロゴロ喉を鳴らしてくれたり。本当に癒しの時間だ…。

そうして今日ももふもふと足元に集まる友達に声を掛け、順番に頭を撫でてやる。
普段は学校にそんなにたくさんいないはずなのにな。僕がいるからか、この時間、この場所には様々な猫ちゃんが集合するのだった。

雪のように白い子や温かな灰色の子、格好良い真っ黒な子や可愛らしい錆び色の子に、それから…。

「次の子だーれだ」

「にゃあ」

「お、あ、おお…?」

「にゃーあ」

他の子たちを押し退けて僕の手の下にさっと頭を滑り込ませたのは見たこともない、茶色い子。というか、何というか…。

「なんか、人っぽい子だね…?」

「そうかなぁ」

「あ、喋った」

「喋るよぉ」

どこからか突然現れたその茶色い猫ちゃん…?いや、人?は、ぐりぐりと頭を擦り寄せて撫でるように催促してくる。でもどこからどう見ても人っぽい…というか僕と同じ制服を着ているように見えるその姿に気を取られすぎて、手が動かない。ついでに頭も働かない。状況が分からなさすぎる…。
すると彼…彼?ううん、その子はじれったそうについに僕の手首を自分で掴んで半ば無理やり撫で撫でさせた。

おぁ。手、肉球がないなぁ。指が長い。全体的にも、僕とおんなじ形。でも僕のよりちょっと大きい。

「えぁ、やっぱ、人間…さん、ですよね?」

「猫だよぉ」

「でもその、制服」

「制服着た猫もいるくない?」

「見たことない…です。というか喋るし」

「猫は喋らないってー?」

「少なくとも日本語は…。あれ、もしかして突然猫語が分かるように…?」

「そうじゃん?」

さらっと肯定されたので、とりあえず近くにいた灰色の子に話し掛けてみた。そしたらにゃあって返ってきた。
多分「ご飯くれ」の意味なんだろうなとは思うけど、この制服猫ちゃんのように一言一句はっきり分かる訳じゃなかった。
不思議だなぁ。

「分かんなかったよ、猫語」

「いつも話し掛けてるのに?」

「う?ううん…ごめんなさい」

「謝らなくていーよ。実はおれ、きみと同じ言葉を喋ってるんだ」

「そっかぁ」

「んぁー。素直ばかわいー」

「今のは、どういう意味…ですか?」

「仲良くなりたいって言ったんだよ」

「はぁ。変わった猫ちゃんだ…」

「ホントにね」

猫なのかな。どう見ても生徒なんだけどな。でも本人…猫?は猫だって言い張ってる。どういうことだろう。
まだ疑問符をたくさん飛ばして考えているうちに、今度は下じゃなくて隣に誰かが座る気配がした。猫ちゃんよりも大きい。というか僕よりもちょっと大きい気がする。

座ったのは他でもない、喋る茶色い制服猫ちゃんだ。

「あなたは…えと、」

「花が咲くの咲で、さくちゃんだよ」

「さくちゃん」

「さっくんでもさくさくでも、好きに呼んでよ」

「じゃあ…咲さん?」

「やっぱ呼び捨てがいいなぁ」

「注文が多いなぁ」

「呼んでよ、雨くん」

「咲…さん?何で名前知って…?」

「知りたいことだからね。もちろん知ってるよ。それにおれら、同い年だよ」

ふっと笑った顔が幼く見えた。なのに僕と同じくらいの年齢っていうことは、猫年齢に換算すると…。

「………おじいさん猫?」

「ごめんね、嘘吐いてた。実はおれ、人なんだ」

「そっかぁ」

「良くも悪くも興味ないねぇ。ぞくぞくする」

「風邪?」

「そうかもしんない」

さく、と名乗った不思議な猫ちゃんは猫じゃなかった。にんげんで、僕と同じ学校の生徒で、同い年で、しかも隣のクラスらしい。

さらに不思議なことに彼と話す時間はあっという間に過ぎた。彼は僕と目を見て話してくれたし、話すのが遅い僕を急かすでも話を遮るでもなくじっと耳を傾けて待ってくれた。
そうしてちょうどいいタイミングで相槌を打って、笑ったり首を傾げてみせたり。色んな顔を見せてくれた。たまによく分からない単語が出たけれど、それはまぁいいや。

とにかく楽しかった。それがとても嬉しくて同時に、寂しかった。
だってこんなことそう何度も出逢えないことだと思ってたから。

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