一緒に遊ぶようになってから、澤くんはあのカフェには中々来てくれなくなった。俺と客として会うのが気恥ずかしいんだって。かわいいな。
家で会えるから別にいいけど、やっぱ昼間も会えたらもっといいのになぁ。
おれがあそこで働き始めてから暫くの間も、彼は姿を現さなかった。あの時は本当に焦ったっけ。
待ち侘びた姿が来た時は、泣いてしまいそうになったんだよ。堪えたけど、それくらい嬉しかった。
お人好しな彼のことだから、誰にでも手を差し伸べてしまう。俺のことも大勢のうちの一人だったんだろう。でも差し伸べてしまった。
見つけてしまった。ありがとうと、ごめんねと、もっと欲しいと。
彼の手をあの日は取らなかったけれど、今は違う。ちゃんと並んでも恥ずかしくないおれでいたい。
やっと掴んだ手を、離さない。というかもう、離せない。
思い出しては欲しいんだけど、忘れててくれてもいいんだよなぁ。
今はもうだいじょうぶかな。彼の隣にいてもいいかな。だめならもっと精進するまでだけど。
彼に借りたハンカチは今でも返せないまま、二つとも綺麗にアイロン掛けして大事に大事にしまいこんである。
いつか返そうと思ったまま、汚したくなくて触ることすらできないで。
彼に見つかる日をずっと待っている。待っていた。あの頃のおれみたいに。
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