mitei カフェ店員パロ | ナノ


▼ 4.side-S

「いらっしゃいませ!」

「はぁ。今日は元気そうですね」

「はい、おかげさまで。ありがとうございます」

「いや、俺は何にも…」

今日はいつにも増して眩しい。めっちゃ眩しい。真夏の太陽ここに持ってきたくらいに眩しい。この店の接客方針だろうか。それにしてもにっこにこだな。
元気になったのなら何よりだ。あれから何気に心配していたが、俺がここに来る日には彼はすっかりいつも通り…を通り越してこの有り様である。どうした。いいことでもあったのか。

「あの、お客様…」

「はい?」

「ハンカチなんですけど」

「あぁ」

「今晩会えます?」

「はぁ?」

「あ、間違えた。ハンカチお返ししたいので、もしよろしければ」

「別に返さなくてもいいですけど」

「そういう訳にはまいりませんので!」

「ここじゃダメなんですか?」

「休憩室に置いてきてしまったのでー」

「別に返さなくても、」

「十九時に駅前でどうですか?」

「俺の話聞いてます?」

「どうしてもあなたにお礼がしたくて。ダメ、ですか…?」

「うっ…」

その顔で見られるのはちょっと…。まるで子犬が怒られたみたいに実在しない尻尾や耳が見える。俺はどうも、このひとのこの顔に弱い。
提案してきた時間は駅に行くのも踏まえてちょうど仕事終わりでちょうどいいし、予定とか何もないし、断る理由がない。
ハンカチは別に返してくれなくてもいいんだけど…まぁいいか。

俺が了承の返事をすると彼の笑顔は更に眩しくなった。上限とかないんだな、眩しい。
更に俺が店を出ようとした時、同時に休憩に入ると言った店員が一緒についてきた。何だろうと思っているとスマホを差し出される。

今夜会うのに連絡先がないと不便だろうからって。なるほどと思って俺は何も考えずに連絡先を交換した。
ふじくら。藤倉さんていうのか。そういやネームプレートにもそう書いてあったな。

「さわ…まさおみ…くん」

「あぁ、俺の名前。藤倉、さんは…」

「呼び捨てでいいですよ」

「え、でも」

「藤倉でも、一織でも」

「じゃあ、藤倉…で」

「ふふっ、よろしくね澤くん」

「はぁ」

あれ、何か変な感じ。敬語じゃなくなったからか。それだけでぐっと距離が縮まった気がするなぁ。
今夜会うのかぁ。駅前って、藤倉…もこの辺に住んでんのかな。

………ん。ちょっと待てよ。

ハンカチ返すんなら、さっき返してくれれば良かったのでは?
そう気づいた時にはもう、藤倉はとっくに店の中だった。

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