mitei Changes | ナノ


▼ 8

あの呼び出しの件からしばらく。
彼がケンカを売られることも変に絡まれることも、全くないって訳ではないけど依然よりかは格段に減った気がする。

やっぱりあのカタカナが多い先輩の仕業が大きかったのかな。先生達の彼への評価も、別にがらりと変わった訳ではないけど、ケンカさえしないのならば特に何も言う事はないという感じだ。
元々成績が良いし、生活態度も、授業中ほとんど寝ていることを除いてはそれほど悪くない。というか授業中ほとんど寝てても成績が良いってどういうことなんだ。いつ勉強してるんだ。
テスト前は一緒に勉強することが多いけど、普段からそんなに勉強してるようには見えないのになぁ。
見えないところで色々、頑張ってんのかなぁ。知らんけど、俺も見習おう。

生徒達の視線は、ちょっと変わってきた気がする。
こないだまではケンカしてるあのギラギラした方の千翔星の姿が印象的だったみたいだが、最近は眠そうにぽやぽやしてる彼が可愛く見えるらしい。いわゆるギャップ萌え?というやつである。
そんなん今に始まったことでもないのに、と思いながらも廊下を歩く彼への視線はやはり熱っぽいものが多い。
まぁ、告白自体はずっと絶えないもんな。全部見事に断ってるみたいだけど。

あぁ、そう言えば。一部の生徒とは打ち解けてるんじゃないかなぁと勝手に思ってるんだけどどうなんだろう。多分同じ中学の奴らなんだけど。

あの日、俺が一人で千翔星に知らせず呼び出しに応じたことでやっぱりお説教を食らった。それはまぁ俺も悪いのかもだし、心配してくれたんだろうし、しょうがないにしても、ちょっと言い過ぎなんじゃないのかとカチンと来ることがあって。千翔星と言い争いになりかけたとこで見守っていた彼のクラスメイト達が仲裁に入ってきたんだよなぁ。
珍しい、いつもは遠巻きで見てるだけだった彼らが進んで関わってくるなんて。しかも、結構一生懸命俺たちの話を聞いてくれたりして。

やっぱりちょっとは、彼のことを怖くないと知ってくれたんだろうか。そうなら嬉しい。
結局彼らのお陰で俺と千翔星はケンカせずに済んだ。ありがたい。あれからは話し掛けてこないけど、ちょっとずつ仲良くなれたらいいなと思う。

それはさておき、俺には気になってることがひとつ。
隣で欠伸を零した彼に向き合って、ずっと気になっていたその事について尋ねることにした。

「結局さぁ」

「うん?」

「何でほぼ毎朝うちに来てんの?ちとせくんやい」

「なんで」

「うん、なんで?」

理由を訊いたのはこっちなのに、こてんと首を傾げられて何を言ってるのか全く分からない、という顔をされた。ちょっと腹立つな。
普通の疑問だと思うんだけど。もうすっかり慣れたとはいえ、理由が気になる。あの狭いベッドで眠るのも抱き枕みたいに包み込まれてるのもそのまた逆も、最早日常の一部みたいになってきてるが…。
たまにふと、どうしてこんなにべったりさんになったんだろうと不思議になるんだ。

やっぱり俺が泣いてるのを見てたから、だろうか。それだけで?

じっと見上げているとやがてううんと傾げていた首を元に戻して、彼は言った。

「えぇと…晶翔が来ないから?」

「俺?」

「毎朝来てくれるって言った」

「そんなこと言ったっけ」

「言った。待ってみたけど、来ないから。こっちから行くしかないかなって」

マジで。全く記憶に無い。そんな会話したっけな。
そもそもどういう話の流れでそんなことを…。

「いやでも、お前が来る前は俺が毎朝起こしに行ってたよな?」

「玄関まではね」

むすっと頬を膨らましてしまった彼はどこか不満そう。玄関までって、そんなもんじゃないか?
一度、あまりに起きないこいつの部屋まで上がって起こしに行ったことがあるけど…その時はびっくりした。

「…お前、全裸じゃん。寝る時」

「パンツ履いてる」

「当たり前だよ!?そんな、いや、そういう人もいるだろうけどさ…」

「今はちゃんと着てるじゃん」

「起きて全裸で寝てるお前いたら暫く口利かないよ…。出禁だよ」

というかそうだったら多分恥ずかし過ぎて暫く目すら合わせられなくなると思う…。それを告げるとしゅんとした。垂れてる尻尾が見える気がする。気のせいか。

「あきとがそんなだから、僕が行ったんだよ」

「でも早起き苦手でしょ。というか普通に泊まりに来ればいいじゃん」

「それはちょっと」

「なんで???」

どっちかと言わなくても、寝てる間に来る方がどうかと思う。でも彼はしれっと続ける。あくまでマイペースを崩さないらしい。

「一緒に寝るのは、まだちょっと早いかなって」

「今も一緒に寝てるよな?」

「違うよ、夜、眠る時」

「うん。…うん?」

「寝る瞬間、ぽやっとして無防備になるだろ。あきと、ただでさえぽやっとしてるのに、僕が何しても受け入れそうで」

だからダメだ、と。ほほう。何も分からん。
そもそもエブリデイエブリタイムぽやっとしてるやつに言われたくない。お前のがずっとぼんやりしてるぞ、例外はあるけど。

「結局分からんかったからもういいや」

「あきらめられた」

「どちみち起きたらいるんだろうから、もういいかなって」

「いいんだ」

「ダメならとっくにダメって言ってるよ。それにあったかいし」

ちょっと狭いのはどうにかなんないかなとは思ってるけど。足、大体いつもはみ出てるし。

「やっぱ心配だよ」

「なにが?」

「そんなんだから変なのに捕まるんだよ」

「変なの?捕まってないよ?」

「………」

「えっ、なに。残念なものを見る目で見ないでくれる?」

「………あきとくんやい」

「おう?」

「お説教」

「なんでっ!?」

「なんでも」

全然怒ってる感じなかったのに、またお説教宣言。むしろ嬉しそうに見えるのに、マジで何したの俺は。
もしかして、もしかしなくても遊ばれてるなと思い、すぐそこにあった瞳を覗き込むと…あぁほら。

あの時とは全然違うけど、きらりとちっちゃな星が瞬いた。綺麗だ。もう本当、どうしようもなく。

好きだなぁと思わず呟いたら、それは更に輝きを濃くしてやがてぼやけて…やっぱり柔らかいのだと改めて実感した。

だから、今チョコ持ってないのにな。

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