mitei オセロなふたり | ナノ


▼ 何歩か前進、多分。

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「あ!おはよう白…羽?」

「…はざます。おれの顔に何かついてますか」

「いや、なんだろ、なんかいつもと…?」

「遅刻しますよ、ほら」

「おお…」

ううん…?
何だろう、いつも見てる顔なのに、何か今朝はどこかが違う気がする。違うっていうか…。
気のせいなんかな。

家が近いからか。そして朝練のおかげで家を出る時間が同じだからか。別に待ち合わせしてる訳でもないのに毎朝彼と出会ういつもの曲がり角で、今朝もまた白羽と鉢合わせた。

あれ、違うな。鉢合わせたっていうか、俺がそこに行くと彼が眠たそうにスマホに視線を落としながら立ってて、それで俺が声掛けて顔上げて…。そしてその顔は、どこか…。

なんか、待ち合わせしてたみたいじゃないか?
というか、用事がある時ならともかくいつもはばったり会うのがほとんどで、こんな…あれ?
今日用事あんのかな。それとも…まさか。

「あのさ白羽、もしかしてなんだが…」

「何すか」

「誰かと待ち合わせとかしてたか?」

だとしたら、俺と一緒に登校してる場合じゃないのでは、なんて。

そう訊いた瞬間、隣で歩いていた白羽の足がピタリと止まった。
歩幅は違うはずなのに何故かいつも俺と同じペースで歩く長い足。同じ制服を着ててもブランド品みたいに着こなすちょっと腹の立つ足が、ザリッと音を立てて俺の方を向く。
その爪先を見て、それから顔を上げると、いかにも「何を言ってるんだこいつは」と書かれたご尊顔があった。美形の真顔やっぱこわ…。

「寝惚けてんの?センパイ」

「こわ」

「あ」

俺がそう呟くと、白羽は眉間を摘まんではあっと短い溜め息を吐く。
え、キレられてる?こわ…。どこが駄目だったんだと自問自答してる間にも、白羽はまた顔をこちらに向けた。あ、あれぇ…?
呆れたような、うずうずしてるような、何とも言えないカオ。でもいつもとやっぱり違う、いつもよりずっと話しかけやすい感じがする。いや、まさかまさか。

「も、もしかして、俺を待ってた…とか?」

「他に居ないでしょ」

「おお…」

「んだよ」

「いえ、珍しいなと」

睨んでこないのが…。それから、やけに素直というか、俺に優しい(当社比)のも…。

今朝、いつもの角で俺を見つけた白羽の顔は険しくなかった。睨んでもこなかったし、舌打ちも無視もなかった。友好的ともとれる態度に感動すら覚えたのだが…あれ。
まだ数秒しか経ってないのに何でまた睨まれてんだオイ。やっぱそのカオがデフォルトなんだろうか。

まぁ、これはこれで別にいいけど。
また歩き出す。何となく自分の靴先に視線を落とすと、隣からポツリと話す声が聞こえた。

「…親父が」

「うん?」

「レシピの感想、知りたいって」

「…ああ!あれ親父さんが書いたんだ?すごいなぁ」

「あー、まぁ。てか、うん」

「どした?」

「…いや。また今度でいいんで」

「おう」

珍しく歯切れの悪い白羽を横目に、俺はあの分厚いレシピ本を思い出した。
あれ、本当色んな料理が載ってて、家族全員まだ全部読み切れてないんだよなぁ。変にお洒落なメニューというより時短料理とか冷蔵庫の残り物活用メニューとか多くて助かりそうな内容だったけど。というかあれ貰ったの昨日だしまだペラペラとしか見られてない。親父さんも気が早いったら。
でも、それくらい感想が聞きたいのかもしれない。出来るだけ早くお伝えできるようにしよう。

「今度はうちがレシピ本のお礼しなくちゃなぁ」

「いらねーすよ」

「そんな訳にはいかないだろ」

「じゃあ」

「お、なになに」

「…またにゃんこ、触らせて」

「そんなの、別にいつだっていいのに」

こいつは本当に猫好きなんだなぁ。分かるぞその気持ち。しろあんのもちもちからは一度触れば逃れられまい。分かる分かる。

「あと」

「おう?」

「…ぎ、」

「ぎ?」

「あの、クロがいつも着てる部屋着…」

「が、どしたん?」

「どこで買ってんのか毎回すげー気になる。から、今度連れてって…ください」

「え」

「だめ?」

「いや、それも別にいつだっていいけど…白羽もああいうの着るんだ?すげー意外」

「着るとは言ってない」

「買いに行かんの?」

「行く」

「あっはは!りょーかいっ!」

俺の愛用部屋着、気になってたんだ。というか興味持ってくれてたんだ。何というか、可愛い奴め。こいつならきっとどんな服でもモデルみたいに着こなすんだろうなと思ったら自然に頬が緩んだ。あの服を、白羽が。
絶対似合う。どんなやつを選んでやろう。

隣を見上げると、やっぱり睨んではこないどころか口をきゅっと結んだ彼の顔があった。
それは一体どういう表情なんだろう…。

何にせよ物理的にも精神的にも白羽をこんなに近くに感じたのは初めてな気がしたので、俺は嬉しい気持ちで学校への道を歩いた。その陰で白羽が密かにガッツポーズしていたことなんて気づかずに、どんな服を着て行こうかなんて呑気に考えながら。

「着るとは言ってないからな」

「何で?お揃いしようぜ」

「………まぁ、デザインによる」

「すっごいカッコいいのにしよ!」

「………ん」

ゴホンッと。俺たちが歩く後ろで、会社に向かう人だろうか?スーツを来た女の人が大きな咳をしていたので、風邪じゃなきゃいいなとちょっと心配になった。

「クロ」

「んー?」

「前見て。転ぶよ」

「おお、ありがと」

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