mitei カフネ | ナノ


▼ 7

馬鹿は風邪を引かないらしい。
ということは、あのひとは馬鹿じゃなかったということか。

いや別に、頭が悪そうとは思ってなかったけどさ。シンプルに変なひとだと思ってたし。今も思ってるし。

それにしてもあんな風に弱った姿を見ることになろうとは…本当何であんなところにいたんだろう。生活圏じゃないって言ってたくせに。

今度会えたら訊いてみようか。会うこと、あるだろうか。

あの後、まだ二日くらいしか経ってないけど、メッセージアプリには何の連絡もない。もちろんというか、電話も掛かってきていない。別に会わなくたって、向こうから連絡が来なくたって俺から連絡すればいいだけの話なのだが…気が乗らない。とはちょっと違うか。

心配は心配なんだけど、でもどこまで踏み込んでいいのかがよく分からなくて。
俺はアイツのなんなんだろうとか、考えてしまったりして。他人かな。知り合いだろうか。
友達…ではないだろうな。なろうとは言われたけれども。

そんな枠組みなんて気にせずにただ一言「大丈夫?」って訊けばいいだけなのに、それが難しい。いやそんなに難しいことでもないか。
実際気になるんだから、パパッと文字を送ればいいだけのことだ。

俺はいつからこんなに人に気を遣うようになったんだろう。というかこれは、奴に気を遣ってることになるのだろうか。違う気がする。
俺がただ、どう思われるか臆病になってるだけなんだろうな。

なんで、どうして。あんな変人相手に。

「………うーん、分からん」

まいっか。訊いてみよ。

「大丈夫か、と」

トトトッと自分の気持ちが変わる前にメッセージを送った。するとごちゃごちゃ悩んでたのは何だったんだってくらい、あっさりと文字は向こうへ届く。現代の郵便屋さんは非常に足が速いらしい。

既読はつかない。だってまだ送って数秒だからなぁ。そんなにすぐついてもびっくりする。
でも長時間つかなくてもそれはそれで心配かもしれない。

まだ寝込んでたらどうしよう、とか。
またあの店の前で座り込んでたりしないだろうか、とか…。
余計なお世話ってやつだろうか。

「………よっし!」

このまま部屋で悶々としていても仕方がないので、気分転換にササッとコーヒーでも買ってこようと玄関へ向かった。立った瞬間、ポケットに入れたスマホが震えたことにも気づかずに。

そうして靴を履き鍵を取って、さあ出掛けるぞとドアノブに手を伸ばす。
それとほぼ同時にピンポンとチャイムが鳴り、びっくりしてピクリと身体が跳ねた。

俺ん家って、ドアノブに触るとチャイムが鳴る仕組みだったっけ…。いやまだ触ってないわ。
だなんてぐるぐるとおかしな考えが浮かぶが、外で聞こえた微かな靴の音にすぐ我に返る。
誰かが来たのだ。そんな簡単なことに行き着くまでに数秒はかかった。俺、自分が思うより結構ぼうっとしてたのかな。

ちょうど玄関にいたので訪問者をちらりと確認する。そしてまた、びっくりしたらしい身体がピクリと跳ねた。いやいや、マジで。

またお前かよ。

そろりと開けた向こうには、何故だかほんの少し息を切らし、額から汗を流すあの青年が立っていた。

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