「んぁ………?どこだここ」
「お、良かった起きたな」
「あれぇ…なんでいんの…」
「その台詞二回目。そしてここは俺の家」
「おれの…いえ…」
「まだ寝惚けてるな…」
あれから着替えさせて、タオルで身体を拭いて、重い身体をやっとこさ俺のベッドに寝かせたり体温を測ったりして。
呼吸も落ち着いてきたから何か果物とか、食べられそうなものでもあったかなと冷蔵庫を漁っているうちに雨はすっかり止んでいた。
目を覚ましたコイツは店の前で会った時よりもずっと顔色が良くなっていて、またほっと息を吐く。良かった。マジで、まぁまぁ心配した。
「みーくんだ…」
「はいはい、みーくんですよ」
「みーくんの匂い、する…」
「ちょっ、布団嗅がないで。寝てなさい」
「…腹減った」
「食欲あるか、そっか。奇跡的に実家から送られてきてた桃があったんだ。それ、食べられそうか?」
「うん…」
やっぱりぽやーっとしてるなぁ。ちょっと可愛いとか思ってしまったのはなしね。病人だし、そもそも変な奴だし。
ドライヤーで乾かした髪は今は結ばれていなくて、彼の肩からさらりと流されているだけ。
本当に綺麗だよなと思う。
…どうしてあんなところで、蹲っていたんだろう。
「ほーい、切ったぞ。食え。そして寝ろ」
「………」
「なに、やっぱり桃嫌い?」
「…すき」
「なら、ほら。要らないのか?」
やっぱり食欲無いのかな…?と心配が帰ってくるがそんな俺をよそに、彼は徐に口をぱかりと開けた。あら割と大きいお口。じゃなくてだな。
「えと、何してんの?」
「あーん」
「あ?」
「あーん」
「えぇ…」
マジで。ヨットじゃなくて、雛鳥か何かなの…?けれどこの雛鳥くんは一向に口を閉じようとはしない。
俺が口に放り込むまで本当に食べないつもりらしい。マジで子供か。
しょうがないので言われた通りにあーんしてやると、彼はやっと口を閉じて咀嚼した。頬がでかく膨らんでて今度はリスみたいだ。おもしろいな。桃、小さく切ったつもりなんだけどなぁ。
もぐもぐして、飲み込んで、また口を開けて。
何度もあーんしてやっと一個分食べ終えると、彼はごろりと寝転んだ。ここに担ぎ込んできたのは俺とはいえ、自由だな。いや、そういうところ、いいと思うけどさ。顔色も大分良くなってるし。食ったら寝ろって言ったのも俺だしね。
しょうがねぇ奴、と呟いて俺は皿を片付けるためキッチンへと向かった。そんな俺に背を向けるように寝ていた彼が何を考えているのかなんて分からないし、どうでもよかった。
数時間してちょっとは元気になったアイツが自分でタクシーを呼んで、帰っていった後、色々と片付けをした。
アイツが寝ていた枕の一部が湿っていたのはきっと、俺がアイツの髪を乾かしきれていなかったからだろうな。
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