mitei カフネ | ナノ


▼ 13.CAFUNE

確かになろうと思って好きになるもんじゃないなぁ。

いつからだろう。気がついたらきみのことばっかりになってた。

おれに好かれようとか全然考えないで寧ろ突き放してくるのが初めは新鮮だった。
それがいつしかおもしろくなくなった。

いつもいつも、「しょうがないなぁ」だなんて呆れながらもおれの世話を焼く背中がおもしろくて、お人好し過ぎてバカだこいつと思ったりして。それなのにもっともっと、おれのことだけ考えればいいと思うようになって。

その指に触れるのも、その瞳に映すのもおれだけにしてほしいと思うようになった。
果物にすら嫉妬するって言ったら多分、いや絶対笑うんだろうな。でもその顔も絶対…。

彼が言っていたことの意味がほんのちょっと分かってきた気がするよ。ほんのちょっとだけ。

この手にきみの髪を通す度、何も起きなかった海に波が生まれる。優しい風が吹く。
指先から深呼吸するみたいにきみが満ちて、なのにそれだけじゃ足りなくなる時もあるくらいだ。

心地好いことばかりじゃない。荒れ狂う時もあるし、正直おればっかりって思うこともある。
でも薄茶色の瞳いっぱいにおれが映るのを見ると、そこが世界の中心みたいに思えるんだ。
それだけで、おれは間違ってなかったのかなと思えてしまう。そうならいいな。そうならいいのに。

おれに触れられる度、くすぐったそうにするその顔が好きだ。細められる目が、重ねてくる手が、全て風になって守るように包み込んでくる。その度に、泣きそうになる。

大切なひとの髪にそっと触れる。頬を撫でる。指先から、深呼吸するみたいに。
別に名前がついていなくてもいいけれど、そういう一見些細な行動に名前があることもおもしろくて、愛おしいと思う。

おれもね。

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