いや、手で測るのはやっぱり正確じゃなかったなぁ。
念の為、と体温計で見てみたら…微熱あるじゃん!まだ本調子じゃないのかよ。何でそんな状態でうち来てるんだこのひとは!!
だから様子がおかしかったのかぁ。
「ていうか自分で気づかなかった?」
「なんとなぁくダルい気はしてた」
「その時点で気づこう、そんで寝てよう」
「だって…」
「ん?」
悪いことをして怒られてる子供みたいに、彼は俯いた。ベッドを背に胡座をかいたまま、体温計をコトンとローテーブルに置いて呟く。
「連絡、来たから…」
「れんらく」
「大丈夫かって」
「ああ!え、だから来たの?大丈夫じゃないのに…?」
前より大分顔色が良くなっていたとはいえ、やっぱり熱があると自覚するとしんどいのか。彼はあまり声を出さずに頷いた。熱、上がってなきゃいいけど…。
「微熱だからへーき」
「微熱でも熱はあるんだから平気じゃないだろ!バカ!」
「うっさ…折角来てあげたのに」
「それは…。いや待て、連絡したのってついさっきじゃないか?そんなに家近かったん?」
「いや、どちみち近くに来てたから」
「熱があるのに!?」
「だぁから微熱だって…うるさいなぁ」
「もう…。ありがたいけど、無理はしてほしくないよ」
「恋人だもんね」
「なってないから」
「フィアンセだからか」
「なってねぇわ!帰れもう!そんで寝ろ」
来てくれたことはまぁ素直に嬉しいと思わなくもない。けれどそれはそれ、これはこれ。
帰らせる前に何か食べさせるべきだろうか。さっきもらった高級桃がいいか?くれたのはこのひとだけど…。いやでも一緒に食べようって言ってたし、変わんないか。このひとも桃好きみたいだし、消化にも良さそうだし。多分。
「さっきの桃剥くから、そこで寝て…いや行動力あるぅ」
「寝ろって言うから」
ふと彼を見れば、彼はまるで自分の物のように俺のベッドに入り寛いでいた。前も思ってたけど、足が長いせいかちょっとはみ出てるのも腹立つ。いや確かに、寝ろとは言ったけれども。ゆっくりしてくれてた方が安心ではあるんだけども。
…ふてぶてしさ、帰ってきたな。
喜んでいいのか怒るべきなのか分からん。布団もきっちり被ってるし。
まぁ、いいか。とりあえず、折角なので高級な桃を堪能しよう。その前についでだから冷えたタオルとか用意して持ってきてやるか。
「…みーくんてさ」
「なに」
「新聞たくさん契約してたりする?」
「は?してないけど…」
「壺とか絵とか、買わされたりしてない?」
「何が言いたいのか大体分かった。失礼だな、でも前より随分元気そうで何よりだよ」
「いやぁ、そんなんでよく今まで…ちょっろ」
「独り占めすんぞ桃」
「別にあげたやつだからいーけど」
「冗談だよアンタもちゃんと食え!持ってくるまで寝てろよ!」
「………ちょっろ」
何かまた悪口みたいなのが聞こえた気がしたが、俺は一刻も早くこの高級フルーツを味わいたいので無視だ無視。
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