なんでいんの。とはこないだのコイツの台詞。
今度またそっくりそのままお返ししたい。
というか何で俺ん家知って…あ、こないだうちに上げたんだった。そうだったよ。
「おもしろいくらい顔に全部出てるよ、みーくん」
「みーくん違ぇし」
「あ、じゃあ双子のお兄さんか弟さん?」
「いや双子じゃないし、みーくんだけど、じゃなくてみーくんって呼ぶな」
「もしかしてこれから出掛けるとこだった?予定ある?」
「無視かよ。いや、別に…予定とかはないけど」
「お邪魔していいすか」
「もうここまで来ておいて…。まぁいいや、入れば」
「ちょっろ。お邪魔しまぁす」
「なんかすげー腹の立つ一言聞こえた気がする…」
意外でもないけど靴はきちんと揃えるタイプなんだな。口悪いのに。生意気で唐突で意味分からん変人なのに。
そんなことを思いつつ、俺はさっきまでのもやもやが晴れていたことに気づいた。
良かった。なんだよ、元気じゃんか。
本当にちょっとだけ、ちょびっとだけ心配してたんだからな。
「これ、こないだのお礼です」
「どうもご丁寧に…いや何これ」
「桃」
「もも…」
彼がくれたビニール袋には四角くて、割と重いものが入っていた。お菓子の詰め合わせか、もしかしたら夏の定番カ○ピスかと期待した。けどどれも違ったというか、想像を超えてきたというか…。
袋から四角い紙に包まれた物を取り出し、包装紙を取ると桐箱が出てきた。これは絶対高いものに違いない…とそろりそろりと箱を開ければそこにあったのは、桃だった。
それも見たことのないような色つやの良い、絶対の絶対にお高いやつだ。
そもそも桐箱に入ってる果物なんて初めて見た。こんなもの、こないだのお礼にしては釣り合わなさすぎる…。恐れ多いぜ、こんな高級フルーツ…。
そんな俺の反応をどう取ったのか、彼は思い出したように口を開けた。
「あぁ、実家からのがたくさんあるんだっけ。気が利かなかったなぁおれ。ゴメン、持って帰るわ」
「待って待って、え、持って帰るの?」
「だって、要らないかなって」
「要らないとは言ってない!ありがとう!!」
「無理しなくていいよ?好きなもの先に訊いておけばよかった話だし」
「俺も、桃好きだよ」
そう言うと彼は一瞬への字に口を曲げて、それからきゅっと引き結んでおかしな顔をした。まるで何かを、抑えてる…?みたいな。気のせいか。
「すき…?」
「うん、すごい好きだから嬉しい」
「そっか…」
「おう!本当にありがとう!」
「喜んでくれたならいいけど」
「めちゃ喜んでる、本当、ビビるくらい」
「そんなら良かった、うん、よかった」
まだ本調子じゃないのかな。
ほっと胸を撫で下ろしている彼は顔色こそ前より悪くないけれど、表情がどこかぎこちない。
初めの頃のふてぶてしさというか、生意気で腹の立つ、人を見下した感じが薄くなってる…気がする。
やっぱまだ具合良くないんかな。
「折角持ってきてくれたし…今食べていい?」
「どうぞ」
「やった!一緒に食べよ!」
「………うん」
ありゃ、なんか、顔が赤いな…?俯いてるし挙動不審だし、やっぱりまだ熱があるんじゃなかろうか。無理してまで来なくてもよかったのに。いや、顔を見られたのは素直に嬉しいけどさ。
桃をキッチンに置いて麦茶が入ったグラスをベッド横に座る彼の前に置いた。そろそろと顔を上げた彼は前より幾分元気そうとはいえ、やっぱりどこか…様子がいつもと違って見える。
「みー、くん?」
「ちょっと失礼」
「…っ!?」
本当に熱はないのか確かめたくてそっと額に手を置くと、彼から声にもならない声が漏れた。
そんなに嫌だったか…?申し訳ないことしちゃったな…。
「えと、多分熱はなさそう、だけど…何かゴメン?」
「いや、大丈夫…。びっくりしただけ」
「そっか」
「そうっす」
距離が縮まっているのかいないのか、何だかよく分かんないなぁ。
でも、瞳は…。海のように青い瞳は、あの日と少し違って見えた気がした。
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