窓の外。眩しくて細めた目を太陽が笑う。
部屋の中にあるもっと温かで柔らかな太陽の方へ向くと、予想通り彼はきゅっと唇を引き結んでいた。
「と、まぁ大体こんな感じですかね」
「………」
ソファーベッドの隣。数十センチ先の、手を伸ばせば届く太陽。
触れても火傷しないそれはとても脆く、そしてとても優しいことをおれは知っている。
「まぁ、そういうカオされるんだろうなーって思ってたから、言いたくなかっただけなんだけどね」
「透羽さん」
「なぁに」
「貴方が探偵になったのは…」
「そうだよ。ただ確かめたかったから」
この子には何もかもお見通しなんだろう。おれの話の中で、おれが意図して言わなかったことも汲み取ったらしい彼は珍しく言い淀みながらおれを見た。
「そのひとが、透羽さんのお母さんが元気か、どうか…?」
「そうかな。うん。結構元気そうだったよ。顔色も記憶よりずっと明るくなってたし、ちょっと太ってたかも」
「直接は会ってないんですか…?」
おれが探偵の真似事を始めてすぐのこと。一番にあのひとの居た…あのひとと過ごした海辺の町へ行った。
新しくできたらしいスーパーで働いているという彼女は相変わらず薬指に記憶と違わぬ指輪を煌めかせながら、明るい笑顔で接客をしていた。
その姿はあの頃の弱々しいものではなくて、もうきっとおれが支えようだなんで思わなくても立っていられるのだろうと、勝手に納得して。
元気そうでよかったとひたすらに…ただそれだけを感謝したことをまだ覚えてる。
「そうだね。遠目に見ただけ。それでじゅうぶん」
「そう、ですか」
そうですよ。
元々会えたとしたって話し掛けるつもりなどなかったのだし、ただ元気そうな姿が見られただけで満足なんだと。
そう告げても彼は…凛陽くんはどこかずっと、考え込むような顔をしていた。
「…りょうくん」
「はい」
「チョコ食べる?」
「食べます」
「食べるんだ…」
いつもなら「いや、いいです」だなんてあっさり拒否されることの方が多いから、ちょっと驚いちゃったけど。
口の中でチョコを溶かしながらもやっぱり彼はどこか遠くを見つめていた。
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