「十色とさくらくん。お前らすっげー噂になってたけど、あれマジなん?」
「噂とは」
食堂で会って早々、小林に質問される。噂ってなんだろう。心当たりしかない。
小林以外にも食堂に居た学生がこぞって俺たちを見ている。何なんだろう。マジで。心当たりしかない。
「だからその…何か抱き合ってたとか、キスしてたとかさ」
「あ、キスしてない。ゴメン、今からするね十色」
「しなくていいしなくていいしなくていいマジで」
「全力拒否」
ぎゅっと腰を引き寄せてぐぐぐっと顔を近づけてくる変態スウェットの精を押し退けて、俺は小林に説明した。
「抱き締め合ってたっていうか、コイツにいきなりぎゅってされたの。全面的にコイツが悪い」
「ぎゅって言う十色かぁわいいなぁ…」
「てめぇは黙ってろよ変態」
相変わらず抱き寄せられたまま小林に視線を向けると、彼は何かを納得したように「そうか」と呟いた。
「でも、場所は考えろよお前ら」
「だから違ぇんだって」
「違くないよ、もう公認だよオレら。どうする?」
「とりあえず離して」
「うーん、ちょっと今は無理っぽい」
「くっそ…小林ぃ」
「俺に振るな。じゃあ、向こうで食ってるから落ち着いたら来いよ」
「小林ぃぃいいいっ!」
「浮気はダメだな」
「うるせぇスウェットの精」
グレーの髪とグレーの瞳を輝かせて俺に微笑みかける彼は、周りの視線なんて本当にどうでもいいようだった。
さくらがふっと微笑むだけであちこちから感嘆の声が上がる。何で俺なん。何でコイツなんだ。
「十色」
「なに」
「もっと知りたい。きみの色が」
「おもしろくないかもよ」
「おもしろいかもよ」
だからもっと見せて欲しいだなんて、探究心旺盛なスウェットの精はまたふふふっと微笑った。
腹立つな。全く、本当に腹が立つ。ちょっとドキッとしてしまった自分にも、それに気づいてるだろうに気づかない振りをしようとしているコイツにも。
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