「十色くんは随分とお友だちが多いんですね」
「まぁね。人柄かな」
「だよなぁ」
「………」
あれ、突っ込まれない。どうしたことやらお元気が少ないようだ。
「さくらくんもアレじゃん、ファンクラブとかあんじゃん。なぜお前のファンになるのか理解は出来んけど」
「くん付けいらんつってんじゃん。別に、ファンクラブとか望んでない。勝手にしろって感じ」
「ほぉん。そっかぁ」
もそもそと箸を進める。今日は何か、ラーメンの精らしい。気づけば髪色が白から金に変わってた。そんなに頻繁に髪色変えて禿げたらどうすんだろ。気にしてないんかな。俺はどうでもいいけど。
俺の正面で突っ伏しながらも、グレーの視線だけは相変わらず真っ直ぐに向けてくる彼。今日はラーメンの精と関係があるのか、晩飯もラーメンである。これは多分俺が食いたいって言ったからなんだろうな。
ラーメンだけど野菜たっぷり、チャーシューも増量の何とも大盤振る舞いな豪華ラーメンでこれまた美味い。友だちにも、コイツ…さくらに飯を作ってもらい始めた辺りから俺は太ってきたなと言われた。
太ったというか、根っからのインドア派な俺は元がそもそも太くはない。それが最近いい感じに健康的になってきたらしい。でもただ太るのは嫌だから筋トレでも始めるつもりである。来週、いや、再来週辺りから。多分。気が向いたら。
ズズズズッと麺をすする音が部屋に響くが、それくらい。何だろうな、こんな奴にもこういう日があるのか。
今日は何故だか、さくらの口数がとても少ない。
「ラーメン美味いよ」
「よかた」
「お前も食えば」
「あとで」
「ひとにはアレコレ言うくせになぁ」
「あーんしてくれたら食う」
「………」
「………?」
ふむ。俺はふと、自分の箸でもやしを摘んで彼の口元に差し出した。暫しの沈黙。
何だよ、あーんしたら食うつったのそっちじゃんかよ。俺のあーんじゃ不満かコラ。
「食わんの。もやし嫌い?」
「………ちょっと待って、今驚いてる」
「そっか。手疲れるからもう下ろしてい、おわ」
「…まぁまぁ、いや、すげー美味いわ」
「だろ?作ったの変態だけど」
俺が疲れそうになった腕を下ろす間もなく、箸にばくりと食いつかれて一瞬ビビッた。こっちから始めたこととはいえ。もやし一本で、そんなに笑顔になるのかお前は。もやしすごいな。もやしは偉大だ。
「…十色くんはさぁ」
「うん?」
「………何色が好き?」
「………うん?」
唐突な質問にちょっと固まる。何故に色。俺すら知り得ない俺の情報すらも網羅しているコイツから、まさか普通の質問を投げかけられるとは。
そんなの、俺に聞くまでもなくコイツなら知っているに違いない情報だろうに。世間話でもしたい気分なのだろうか。
「なにいろが、すきですか」
「ううんと…まぁ強いて言うなら…」
「いうなら」
「グレー」
じっと真っ直ぐに見つめた先にあった色。俺は特にこだわりがないので服装はモノトーンなことが多いが、別に白黒が好きとかそういう訳でもない。
そしてグレーが特別好きって訳でも、なかったはずなんだけどなぁ。
「ぐれー?」
「グレー。灰色」
「そっか。そっかぁ。初めは、ピンクが好きなんだと思ってたよ」
「………」
「お前は?」って聞きかけて、何かやめた。ラーメンが伸びるから。コイツの好きな色とか心底どうでもいいし。ラーメン伸びるし。
ふっと微笑ってからさっきより随分と上機嫌になったらしいさくらは、何故だかまた深く顔を埋めて俺から視線を逸らした。
ズズッとラーメンを啜る音だけ。それだけが、小さな部屋に響いてた。
「なぁ、明日も一緒に学校行こうね」
「まぁ、いいよ。飯美味いし」
「………すきだ」
多分テレビの音だろう。またズッって聞こえた気がしたけれど、俺は気にせず食器を洗いにシンクに向かった。
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