mitei ところできみは何色ですか | ナノ


▼ 3

おやまあこれは。春なのに、冬に戻ったみたいだな。
というのが本日の第一印象。

「とーいろー!ひるめ…おわっ!なん、何ソレ!!」

「おー、何か今日は白米の精なんだって」

「は、はくまい…?」

「うん」

さば味噌で餌付け…じゃないや、ほんのちょっと気を許してしまった俺はあれから度々…というかほぼ毎晩彼とご飯を食べることが増えてしまった。
そりゃ一回は断ったさ。断ったけど、そしたら「そっか…迷惑だよなぁ」なんてしょんぼりした風を装って部屋に戻って。
そこからわざわざ隣の部屋の俺にもよく聞こえるように「あーあ!」とか「寂しいなぁ!」とか最早独り言とはいえない独り言を呟くようになるのだ。これがまた鬱陶しい。ものすんごく鬱陶しい。
絶対俺によく聞こえやすいように壁に向かって話し掛けてくる。実に鬱陶しいし他の部屋の住人にも迷惑だ。実際、何故か彼の部屋ではなく俺の部屋に苦情が来た。

そんな風に騒がれるならもういっそ目の前で騒がれる方がマシだと、さば味噌以来部屋に上げてからはもうなし崩しである。
まぁいいや、飯美味いし。そんな風に言うとまた「そういうところー」なんて笑われた。何だか腹が立って、一瞬追い出そうかと思った。

という訳で、実にとんとん拍子に俺と自称何とかの精との距離は以前より縮まってしまったのである。
そして彼の特徴は料理上手なのと、鬱陶しいことだけではなかった。

「おわぁ、これはまた見事な…白髪?」

「せめてホワイトヘアって言ってくんない」

それって結局は白髪じゃん。
そう、彼の髪色はよく変わるのだ。出逢った時は桜みたいな薄ピンク。その次は海苔の精の黒髪。そんでその次は…真っ白。とまではいかないものの割と白い。
瞳のグレーともよく似合ってる。黙ってその辺を歩いていれば、めちゃめちゃ声掛けられるだろうなってくらい眩しい。髪がね。

「で、今日は何の精なんですか」

「そうだなぁ。あーじゃあ、いつもは綺麗に食べてくれるはずのきみが昨日意図せずしてお茶碗のふちに残してしまった白米の精にしよう」

「それは言えよ、もったいないじゃん」

「だいじょーぶ、オレが食った」

「尚更言えよ」

というかその儚げな見た目で、雪の精とかじゃないんだな。まぁもう冬じゃないですけど。
でまぁ、そんなやり取りがあり、講義が終わり、いつものメンバーで昼飯食おうぜ!と連絡が来たので食堂へ行くと、冒頭の友の第一声である。
そう、俺の肩には今、白米の精が乗っている。

もうちょい具体的に言うと、髪を白米みたく真っ白に染めたさくらくんが後ろから俺に抱きついたまま頭を肩にぐりぐり寄せている。ここまでこんな格好で来たんだもん。器用だよな、俺もコイツも。
なんて感心している間にも俺の友だちは引いていた。分かる。俺も引いてる。けどもう慣れちゃった。
まるで何でもないように食堂の席に座ると、さくらくんもすとんと隣に座った。友だちは全員彼の顔を見るなり、青褪めたり赤くなったりと忙しない様子だった。
けどこういう反応にももう慣れちゃった。どうやらコイツ…俺にひっつき虫もびっくりするくらいべったりの自称白米の精は、学内でも相当な有名人だからだそうだ。興味ねーけども。
変態だからかな、と思ったけどどうやらそうじゃないらしい。何かファンクラブあるんだって。何するんだろう。てか何でファンいるんだろう。まぁいいか。

食堂中の視線を集めながら、俺は隣からあーんを強要してくる白米の精を無視して自分の分の弁当を食べていた。これも、さくらくんから半ば強制的に持たされるようになったものだが…美味いから食う。
食費払うって言ってんのに受け取ってくんないから、毎回弁当箱に仕込んでるの、あれちゃんと受け取ってるんだろうか。

もぐもぐしながらふと正面に顔を上げると、隣でパシャッと音がしたのはさておき俺の友だち数名が何とも言えない表情でこちらを見ていた。

「あのな十色…と、さくらくん。誰だってあんな羽織の無い二人羽織りみたいな格好で現れられたらびっくりするよ」

「じゃあ今度から羽織り持ってくるね」

「多分そういうことじゃないぞ、さくらくん」

「そもそもお前ら…仲良かったのか?」

「確かに。学部違うのによく一緒に来てるし」

「いつから仲良いの?」

「生まれた時から」

「いや全然他人」

「生まれた時から」なんて答えやがったのは白米の精。全否定したのは俺。しれっと嘘吐いてんじゃねーわ。
ちらりと隣を睨みつけると、パチッとウィンクされたので反射的に目潰ししかけた。それを向かいに座っていた俺の友だちが咄嗟に止めた。さすがはテニスサークルのエース小林だぜ…反射神経は俺の数段上らしい。
そうして目潰しされかけた当人はというと、何故だか俺の腕を掴んだ友だちをヤンキーが如く睨みつけていた。そこは感謝するとこだろ、俺が言えたことじゃねーけど。

「十色くんに触れるな…」

「白米の精めんどくせぇ。気にしなくていいぞ小林」

「え、あ、おう。…うん」

「十色くん、ほら、あーん」

「あ、レポート明日までだわ」

「返事くらいしてやれよ…」

強制的に持たされるようになった弁当だけど、栄養バランスちゃんと考えられてて美味い。作ったのコイツなのにな。
また微妙な面持ちになってしまったマイフレンド小林は考えるのをやめたのか、自分のカレーに漸く手を付け始めた。小林、とにかくいい奴である。

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