四つ目の部屋に入ってもやはり同じ構造、同じドアと掲示板。それにしてもエアコンらしきものは見つからないのに、空調とか一体どうなっているんだろう。ナチュラル過ぎて気づかなかったがさっきから丁度過ごしやすい温度が保たれている気がする。今のところそれほど激しい運動はしていないけど、運動しても涼しいままなのかな。
それでもさっきからずっと繋ぎっぱなしのところだけは何故か熱くて、やはり手汗が気になってしょうがない。右の手の平だけ、熱い。
「なあ、手は」
「さっきの台詞でちょっと傷ついたから離さない」
「意味が分からない」
「撮られるのが恥ずかしいなら今度からはもっとこっそりやるよ」
「こっそりも尚更やめろ。やるんなら堂々とやれよ」
「やっぱり澤くんおっとこ前だなぁ。ゆるしてくれるの?」
「基本的には許したつもりはないけど?」
撮られるのが恥ずかしいっていうか、何で俺みたいなのそんなに撮りたがるのかてんで理解出来ない。藤倉みたいにカッコ良ければ撮りたくもなるかもしれないが、俺なんか撮って一体何が楽しいんだろ。
「次はなんだろねぇ」
あ、話変えやがったな。
俺がふうっと短い息を吐いて掲示板を見ると、またまた新たな指示が表示された。
「えぇ?『どちらかが相手に好きだと言わないと出られない部屋』?…嫌いの次は好きかよ」
何ともよく分からない指示だが、これならさっきより簡単そうだ。文字数が少ないってのもあるが、変に嘘つかなくていいし。
藤倉のことは好きか嫌いかと言われると好きだ。変態だしよく何言ってるか分かんないしたまにテンションおかしくなるし意味不明なことも多いけど、一緒に居て楽しいし話も合うし、何より藤倉が笑うと俺も嬉しいのだ。スキンシップも過剰だなと思うことは多々あるが、それでも不快に思ったことは今のところない。
嫌いな相手なら、こんな風には思わないだろう。
「これってどっちかが相手に好きって言えばいいんだよな」
「みたいだね。さっきは澤くんにやらせちゃったし、今度は俺が言うよ」
「いいのか?あー、でもお前の方が得意分野っぽいな」
そういえばいつも息するように俺に告白めいたこと言ってくるし、こういうのは藤倉に任せた方がいいのかもしれない。何かやる気満々だし。
「じゃあ言います」
「何で敬語」
「澤くん…いや、優臣くん」
「はいはい」
「………あいしてるよ」
「え」
ちらりとドアの方を見るが反応が無い。やっぱ「好き」じゃなきゃ駄目なのかな。
「あのさ藤倉、いつもさらっと言ってくんのに何でそんな改まってんの」
「いや、だって何か緊張して」
「緊張?お前が?」
「澤くん上目遣いで見つめてくるし」
「お前の顔が上にあるからだろうが」
「心なしか瞳うるうるしてるし」
「目乾かさないための生理現象だろうが」
「いざ目の前にするとやっぱり…あいしてるとしか」
「重いわ。本当意味が分からないなお前は。もっと普通にいつもみたくさらっと言えないのか」
「いつもだってさらっと言ってるつもりないけど」
「え、そうだったの?」
帰り際いつも言われるからもう挨拶みたいなもんだと思ってたんだけどなぁ。じゃあ何でそんな労力使ってわざわざ言ってくるんだ。
「お願い。もう一回チャレンジさせて」
「いいけど、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!今度は本心だからね」
「はあ…ありがと」
やっぱ友達居なかったんだろうなぁこいつ。俺が藤倉に好かれているらしいことはこいつの態度とか言動とかでひしひしと伝わってくるけど友愛にしてはちょっと重いんだよな。…気のせいかな。
「じゃあ、いきます」
「だから何で敬語」
「さ…、まさおみくん」
「何故名前呼び。いいけどさ」
いつにも増して真剣な眼差しで真っ直ぐに俺を見つめ、薄い唇が開いていつも聞くのと同じ音を出した。
「優臣。………あいしてる」
「だから『好き』だっつってんだろうが」
ピピッ。
あ、ドアが開いた。
いつも帰り際に聞いているのと同じ台詞だったのにも関わらず不覚にもどきりとしてしまったのは多分下の名前で呼ばれたからだ。
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