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▼ バレンタイン番外編

そわそわした気持ちで授業を終え、寮の部屋に帰ってくると、俺は鍵を閉めているルームメイトもとい恋人に早速尋ねてみた。

「あのさシキ、今日キッチン使っていい?」

「別に許可取らなくても全然いいけど、どしたの突然」

「あのさ、あのね…チョコ作りたいなと思って」

「え?」

「て言っても溶かしてもっかい固めるだけみたいな簡単なやつなんだけど」

「は?」

材料なら実はもう揃えてある。と言っても大したものはないから学園のコンビニみたいなとこで事足りたんだけど。
で、肝心の恋人さんはというと何故か真顔で固まってしまった。怒るようなこと言ったのかな俺…。夕飯までには作り終えるつもりだし、片付けもちゃんとするつもりなんだけど…。

「うぇ、怒ってる?やっぱキッチン使っちゃダメだった感じ?」

「全然怒ってないけど混乱してる…ちょっと待って、チョコってなんだっけ」

「…?あの茶色くて甘くて美味しいやつですけど」

「そう、そうだよな。あの、茶色くて甘くて美味しい…チョコさんを、手作りすると…?」

「何で敬称つけたん?まぁチョコさん手作りするけど」

「………なんで?」

何でって。今日だって昼休みに手作りのガトーショコラをくれた張本人が何を言っているのやら。それにガトーショコラ作る時だって味見させてくれたし…いやそれはともかく。理由なんてただ一つだ。

「何でって、バレンタ、」

「待っっって、ちょっと待って」

「シキさん、段々うちの兄ちゃんみたいになってきたよなぁ」

「それは喜んでいいのか…。いやともかく、いやまさか、あのショウゴさん」

「なぁに?いつも通り様子のおかしいシキさんや」

「そのチョコってもしや」

「シキあてだよ」

「………!」

「本当にうちの兄ちゃんみたいになってきたなぁ。そんな驚く?」

「いやまさか、手作りでもらえるなんて…」

「溶かして固めるだけだけどね」

「…どうしたら永久保存できるんだろう」

「ちゃんと全部食べてね」

「今日は記念日だ…」

「バレンタインだからね」

こういう風におかしくなっちゃうシキにはもう慣れてきたな。表情がころころ変わっておもしろ…可愛いなとすら思う。シキからはもらったけど、シキはまさか俺からもらえるとは思っていなかったらしい。失礼だな。
俺だってシキみたいに凝ったものはできないけど、ちゃんと贈りたいと思ってるよ。感謝の気持ちとか、これからもよろしくみたいなメッセージとか、チョコさんに乗せて色々と。

大体そんなことを伝えるとシキは完全に床に手をついて四つん這いの姿勢になった。どうしてかちょっとだけ、理事長もといシキの親父さんの姿がよぎる。おかしいな…さすがに理事長の四つん這い姿は見たことないはずなのに。
こう、感情を全身で表そうとするところが親子で似てるのかな。分からんけど。

「全部録音しとけば良かった…!」

「てわけで、夕飯までには終わるから」

「それって見学してていい?」

「えぇ、恥ずかしいからやだよ」

「は?絶対見る録画するちょっと待って一眼レフ持ってくる」

言うが早いか、シキはさっと立ったかと思うと自分の部屋に向かった。その腕を間一髪?のところで掴んで止めた。自分にもこんな反射神経あったんだなぁ。というか。

「兄ちゃんよりおかしいかもしれない行動やめてマジで」

「録画だめ?」

「だめ」

「見学は?」

「それもちょっと…」

溶かして固めるだけだし…。見ててもおもしろいことないと思うし。と伝える前に、スマホのカメラの調子を確かめていたシキが名案とばかりに顔を上げた。

「じゃあ一緒に作ろう!」

「え、それじゃ意味が…」

「ガトーショコラも一緒に作ったじゃん?」

「あれは味見しかしてないじゃん俺」

「今回も共同作業すればいいよ。ね?」

シキがこてんと首を傾げる。身長が高いのにあざとく見えるから不思議だなぁと思いつつ、まぁいいかと了承した。断り続けてもまたいつの間にかシキの提案に乗ることになってそうだし、二人で作った方が楽しいだろうし。ガトーショコラの時も、共同作業と言えるほど俺は何もしてないんだけどね。

それにしても。
チョコレートにメッセージ書くのは見られてると恥ずかし過ぎて難しいだろうから…口で伝えるのでもありかな。隣にいるし、その方が早いか…。ならチョコさんを作る意味は?ってなりそうだけど、そもそもチョコレートだけを送りたいならわざわざ手作りなんてしないよなぁ。バレンタインというのは告白イベントでもあるけれど、日頃の気持ちを伝えるいい機会かもしれない。つまりはまぁ、ありってことで。

そうして作ったチョコさんたちはもちろんというか、シキが作ったものの方が綺麗で美味しかった。おかしい、材料も手順も一緒のはずなのに。それからシキが一部のチョコさんを永久保存しようとするのを止めるのにまぁまぁ苦労した。作ったものを俺が摘まんで彼の口に運ぶことで…いわゆる「あーん」をすることで大体のチョコはちゃんと食べ物としての役割を果たしたと思う。

それにしてもバレンタインに「あーん」とか…。端から見ればどれだけバカップルなんだろうと思って結構恥ずかしくなってしまった。チョコさんにメッセージを書く代わりにシキに「大好きだよ」と伝えた時より恥ずかしいかもしれない。ちなみにシキは、俺の渾身の告白の後数秒たっぷり真顔で固まって、それから…。それから………。

………。

やっぱり「あーん」より断然恥ずかしくなってきたな…。胃もたれしそうなので、しばらくチョコレートは控えてもいいかもしれない。

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