「あ、そうだ」
「ん?どしたのシキさん」
「ショウゴのクラス。おれと同じクラスなんだけど…」
「本当に?やったぁ」
「え…うれしいの?」
「もちろんじゃん?何で不思議そうなんだ」
シキと同じクラス。嬉しくない訳がない。
俺が即答すると、彼は何故だか一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。なんでだろ。
というかクラスのこと忘れてたな…。いや、多分もらった書類のどっかには書いてたと思うんだけど…まず忘れてるなよって話だとは思うんだけど。
何でシキの方がちゃんと把握してるんだろ。
やっぱ同じクラスで、ルームメイトだからかな。
ご飯も朝起きるのも任せっぱなし…やべぇ。
俺もっとしっかりしなきゃ…。
密かに決意を新たにしていると、正面の彼がおずおずと口を開いた。いつも堂々としているイメージの彼にしては珍しい。
「おれも嬉しいんだけどその、一つ確認しとかなきゃいけないことがあって」
「うん。なに?」
シキも嬉しいと思ってくれてるんだなと思うとまた変な顔になっちゃいそうだが、確認しとかなきゃと言った彼の表情は明るくないみたいだ。一体どんなことを確認されるんだろう…こわ。
「ショウゴ。お前、さ…注目されるのとか、大丈夫か?」
「注目?されたことないから分かんないなぁ…」
「そうか」
「でもなんで?」
「それは、えーと…」
「あ!もしかして転校生が珍しいとかか?」
注目されるのが嫌かどうかなんて、実際されてみなきゃ分かんない。
初めこそ転校生ってことで注目されることはあるかもしれないがそれも次第に落ち着くだろうし。
そもそも転校生ってこと以外で俺みたいなのがみんなの興味を引くようなことがあるとは思えないし。
けれど彼の様子から見ても、別の何かがあるみたいだ。その何かが何なのか、言ってくれなきゃ分かんないのがちょっと悔しい。かも。
「それもある、だろうけど」
「けど?」
やっぱりちょっと言い辛そう。
これ以上突っ込んで訊いてしまっていいものなのだろうかなんて思ってしまう。
だけどそれでも、彼は続ける。
「転校生ってこと以外で、お前は色々と噂の標的になると思う。いや、おれのせいでもう既になってると思う…。でも、その」
「うん?」
「学校でおれがお前に話し掛けたりしなければ、まぁ…つまり一切関わらなければ、それも徐々に落ち着くと思うんだ。そうしたら平穏な学園生活が」
「やだ」
「え」
なんで?って言おうとしたのに、口をついて出たのは拒否の言葉だった。何でシキと俺の注目がどうとかが関係あるんだ。
さっき同じクラスで嬉しいって言ってくれたじゃん。それとも本当は、クラスでまで一緒なんて煩わしいって思われちゃったのかな…。
いーや、待て待て落ち着け。
ちょっと思考がこんがらがってしまったので一旦整理する。
まず、俺とシキは同じクラス。嬉しい。
それで、俺は転校生だっていうこと以外で注目の的になる…というかもうなっている?らしい。
それでシキが俺と学校で関わらなければ、その噂?は徐々に落ち着いて平穏な学園生活とやらが送れるらしい。
うむ。
なるほど分からん。やっぱり本人に訊こう!
「シキが俺と関わると俺が注目されんの?」
「まぁ、そうなる」
「そんで、もしそういうのが嫌なら学校では話し掛けないよーってこと?」
「まぁ…そういうこと」
「じゃあやだ」
「やなの?」
「やだよ!まぁ、シキがわざわざ学校でまで俺と一緒にいるのが嫌だって言うなら…それはしょうがないけど、」
「そんなわけないっ!」
「おぉ、びっくりした…」
ここ数日でも多分初めて聞いた大きめの声に少しだけ身体がビクリと反応してしまった…。
それに気づいたのか、彼はすぐにしゅんと申し訳なさそうに謝ってくれた。
「すいません。でもそれはない。絶対にない。有り得ない」
「わ、分かった分かった。なら嬉しいけど…。話し掛けないってのはもしかして、俺のため?」
「まぁ、ね」
「どういうことかよく分かってないんだけどもしかして…シキって有名人?」
「まぁ…そうかもね」
「そっかぁ。でも一切関わらないってなったらさ、お昼ご飯一緒に食えないじゃん。やっぱそれはやだよ」
折角お弁当まで作ってくれたのにさ。
そう言うと、彼はきゅっと唇を引き結び、パチパチと瞬きをした。何とも言えない表情だな。
それから下を向いて…やがて意を決したように顔を上げた。
目がマジだ。
「………分かった。お前はおれが、ぜっっったい、絶対に守る。何がなんでも」
「えぇっと…シキ兄さん」
今から俺たち、ヤンキーの抗争にでも行くんですか?
「ショウゴ」
「ひゃい」
やべ、噛んだ。普通に恥ずい。
「もし、ちょっとでも嫌な思いをすることがあったらおれを殴れ。そんなことはさせないと誓う」
「なんかすごい重いな?殴るなんてやだよ」
「殴らせないようにするよ」
「うーん…。やっぱりよく理解出来ないけど、よろしく」
友達殴るなんて、俺には出来ないもん。
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