mitei あてにならない | ナノ


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「よし、晴れた!」

「シキさん、今日テンション高いね…」

「デートだからね」

「おぁ…」

眩し…色々と…。
こうやって私服で外に出るのって、一緒に俺の実家に帰った時以来な気がする。ちょっと緊張するなぁ。
しかも今日の服なんか…また前とは違ってラフだけど格好良いし。

黒のパンツのせいか脚は細く見えるし、白のトレーナーに小っちゃい鞄斜めに掛けてる。そんでもって今日はスニーカーだ。
ごめんけど、俺には兄ちゃんの漫画に出てくるような語彙力はない。けど格好良い。それはもう、格好良いとしか…。
俺が同じ格好しても絶対彼のようにはならないだろうなぁっていうのは想像するまでもないし分かりきってるんだけど、何が恥ずかしいかって言うと。

「そのスニーカー似合うと思った」

「…どうも」

色は違えど、シキとお揃いのものを身に着けてるってことだ。別に誕生日じゃないのに彼からもらったスニーカー、まさかお揃いだったとは。言ってよ、いや言われても今みたいに顔を赤くさせることくらいしかできないんだろうけどさ!
まだ数回くらいしか履かれていないスニーカーは新品みたいに汚れが少ない。俺がずっと履いてたスニーカーとは履き心地も全然違うし。その足元をちらりと見ながら、つい本音を零してしまった。

「汚したくないなぁ、これ」

「じゃあ今日一日お姫様抱っこしてていい?」

「えぁ、へっ!?いいわけなくない!?」

「あっはは!」

わぁ、とってもご機嫌…。やっぱり今日の…いや数日前から、彼のテンションは高い。昨日なんて二人で軽いファッションショーしてた。何を着て行こうかだなんて、俺も考えはしてたけどまさかシキも悩んでたなんて。実家の時もそうだったんかなぁ。
そうしてあれもいいこれもいいと自分にではなく俺に服を重ねて思案する彼はまるで、遠足前の子どもみたいだった。かわいいとか、思っちゃったけど口には出してない。はず。

それに俺も彼のこと言えないくらいむずむずしてた。いつも一緒に居て、一緒の部屋で暮らしてるのに変な感じ。
そわそわするっていうか、やっぱむずむずするっていうか。嫌とかじゃ全然ないのに、シキの顔を直視できない。本当、笑顔が眩しい…。ん?

「なぁなぁ、シキさん」

「なぁにハニー」

「ちょっと顔ちか、じゃなくてさ」

「ん?」

「今日は変装?しなくていいの?」

「変装」

「マスクとか」

「ああ」

そうだ、眩しいと思ったら。彼は確か初めて会った日も、俺の実家に行く時もメガネやマスクをつけていた。でも今日はそれがない。顔に何も被せていない。あるといったら黒いキャップを被ってるくらいで、それを取っちゃえばお顔が丸見えである。
普通ならそれでいいんだと思うけど、前回のお出かけでシキが芸能人かと疑っちゃうくらい周りから注目されていたのを見てしまっている俺は不思議に思った。大丈夫なんだろうか、これ。シキ自身も、注目されるの嫌がってるみたいだし。

そう心配する俺に一言、彼はあっけらかんと答えた。

「デートだからね」

「ふぁ」

そっすか…。
ウィンクでもされるのかと思った。いや、された。眩しかった。幻覚かも。あ、そうか幻覚か。

「メガネしてる方が好み?」

「いや、別にどっちでも」

「だよなぁ、そう言うと思ったよ」

ちなみにさっきウィンクしたか訊いてみたら、ふふっと微笑ってはぐらかされたので真相は分からないまま。でもまぁいっか。何だかんだ言って、自分だってうきうきしてるんだから。

うちの学園での外出に関する規則は結構緩いらしくて、事前に紙を提出して許可証を貰えばオッケーらしい。他校のことはよく分からないが、この辺りはシキがいつの間にか全部済ませていた。いつの間に…。
わざわざ街に出なくても学園内に一応生活用品が揃うコンビニみたいなものはあるんだが、それではデートの意味がないらしい。確かにそれなら別に放課後でも買えるわけだし、それに学園内だとまた色々と噂されちゃうかもしれないし。俺はどう言われても全然構わないけど、シキが傷つくのは嫌だから。

鈍い俺でも彼にファンクラブみたいなものがあるんだなってのはもう知ってるし、そのファンクラブみたいなのが俺に好意的に接する可能性が低いのも分かる。今まで何も、兄ちゃんが言うような嫌がらせはされたことがないけど、これからもそうとは限らない。そしてもし俺に何かあったら一番に怒って傷つくのは俺じゃなくて、彼だと思うから。
学園の人たちは基本的にいい人だし大丈夫だと思うけど、万が一、念のため。

それにそもそも俺たちがいつも使っているシャンプーやらトリートメントやらは学園には置いてないらしい。じゃあ学園のみんなはまたそれぞれ違うものを使ってるのか、とその話を聞いた時当たり前の考えを抱いた。むしろ何で今までみんな同じの使ってると思ってたのか。学園内で売ってるものなんかなって思ってたからだ。違った…。庶民どうのこうの以前に、考え方が稚拙でちょっと恥ずかしい。

「ううむ…やっぱり俺って無知…?」

「純粋って言うんだよ。お姫様抱っこしていい?」

「何でいいと思った?普通に歩こうよ」

「手は繋いでいいよな」

「え、あ、もう繋いでる…」

「…嫌?」

「…嫌そうな顔に、見える?」

「そ、………見え…うぁ…」

「?俺みたいな声出てるよシキ」

「そんな、返しをされるとは、思わなかったので…」

「うん?」

俺、駄目なこと言っちゃったんだろうか。
前に向き直った彼はさっきまでのきらきら笑顔を帽子でぐっと隠してスタスタとバス停へ歩き出した。

ものすごく小声で「ずるくない?」なんて聞こえた気がしたが、何のことかさっぱり分からなかった。

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