mitei あてにならない | ナノ


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「あ、そろそろだ」

お風呂から上がって、服を着てから棚の中を見るけど予備はない。俺がここへ来る前はどうだったか知らないが、シキは結構几帳面な性格なのでシャンプーとかトイレットペーパーとか、生活必需品を切らすことはなくいつもなら知らない間に補充されていた。
それには甘えてばかりの俺も流石に気づいていて、自分でも気づいたらシキより先に補充するようにしていたんだけど…。

無いなぁ、シャンプーの詰め替えるやつ…。
いつもどこで買ってたんだろ。気づいたらあったから俺が買ったこともないし。この学園に来たばっかりの頃は、そういうものも学園の中で何とかなるもんだと思って必要最低限のものくらいしか持ってきてなかったし。

というか今更だけど、シキが使ってるシャンプーとトリートメント…あとボディーソープ?全部高級そうなんだよなぁ。俺でも分かるくらい、使ったら髪さらさらになるし、気のせいか肌もつるつるもちもちする。
俺の実家にあった安いやつとは多分全然比べ物にならないと思う。初めこそ遠慮していたが、シキは「ルームメイトなら共有して当たり前」の一点張りで俺も一緒に使わせてもらっている…んだけど。
俺一銭も出してないのに、そんな高級そうなものを一緒に使わせてもらうってやっぱり大変贅沢なのでは?これが普通なの?当たり前?ルームメイトってみんなこういうのシェアするもんなのかな。俺が知らないだけでこの学園ではみんな、似たようなものを使っているんだろうか…。

「何してんの?」

「おぁっ」

脱衣所でふうむ…と考え込んでいると頭上から声が。驚きながら見上げると、いつの間にかドアを開けてそこに凭れ掛かっているシキがいた。何だか初対面の時思い出すな…懐かしい。まぁあの時とは、俺でも分かるくらい、視線の柔らかさが随分と違うけども。

「………」

「………あのぅ?シキさぁん?」

「………」

「無言こわ…」

…いや、それにしてもめっちゃ見てくるな。遠慮という文字が欠片も感じられないな。別にいいんだけど。
というかスマホのカメラがこっち向いてんのは…たまたまだよな?…な?

「はっ、ごめん。ちょっと色々と処理に時間がかかって…」

「何の?」

「…いろいろ」

そう謝りつつも視線はこちらに向いたまま、絶えずスマホの位置も微動だにさせないのはなんなん?修行なん?こういう奇行?には慣れてきたつもりだし、兄ちゃんも似たようなところあったから今更驚くようなことはないけれど…。シキの視線がずっと自分に向いてると思うと小っ恥ずかしい気がする。一応風呂上がりだし。

「というかシキさん、ノックした?いきなり現れたらびっくりするよ」

「んー、ごめん。でもいつもより平均一分三十六秒くらい出てくるの遅いから心配して」

「…なんて?」

いつもお風呂の時間とか気にしたことなかったんだけど、シキは数えてたの?何のために。

「てかさぁショウゴ、そんなに生足見せてくるとかなんなん?誘ってんの?乗るよ?」

「あのね、いきなり入ってきたのそっちなんだよね」

「髪もびしょびしょのまんまじゃん、早く服着てこっちおいで」

「全裸みたいに言わないで、パンツ履いてるし、上も着てるし」

「…スウェット上から着る派とかなんなのマジで、は?」

「何でキレてんの…。顔怖いよ…」

「ごめん、ほら風邪引くから早く」

コホンッとわざとらしすぎる咳払いをして、シキが俺の手を引いた。服を着る順番なんて別にそれぞれでいいと思うんだけどなぁ。何か彼の気に触ったのか全然分からないまま、とりあえずリビングのソファーに引っ張られていった。ドライヤーいつの間に手に取ったんだろう。

そうしていつものごとくされるがまま髪を乾かしてもらうと、忘れかけていたことを思い出す。そうだ、シャンプー切れかけだったんじゃん。カチッとドライヤーの電源を切った彼の方を振り返ると、まだお風呂に入っていない彼の乾いた髪がさらりと揺れた。いっつも俺が先に入ってて申し訳ないなぁ。じゃなくて。

「あのねシキ」

「え、彼シャツ?いいよ。その後どうなってもいいなら」

「一言もそんなこと言ってないんだなぁ」

「ごめん、さっきの生足が…。なぁ、いつも上から着るの?」

「いや今日はたまたま取りやすいところにあったのが上だったから、じゃなくてさぁ」

「はい、すいません話して。どしたの」

「シャンプーがなくなりそうです」

言えた。やっと本題に入れたと満足した俺を見つめて、彼はパチリと瞬きをひとつ。本当に音が鳴りそうなくらい綺麗な瞬きだこと。それからふむ…と何かを考え込むようにして、パッと閃いた!という顔をして。一言。

「じゃあ、デートしよう」

「えぁ、デ…?」

「デートしよ」

「何でそうなったん?」

シャンプーなくなりそうイコール…デート?その数式が理解できなくて首を傾げる。そんな俺を笑いながら見下ろして、シキは説明してくれた。

「いつもは色々とめんどいから、こういうのネットで買ってたんだよな。でもたまにはいいなって」

「いいな、とは?」

「ショウゴと一緒に買いに行くの。生活用品とかさ、これから同棲するカップルのデートみたいじゃん」

「おぉ、えと、はぁ…」

にっこりと擬音が踊ってそうなくらい無垢な笑顔でそう言われ、理解が追いつかないままに変な声だけが口から出る。でーと。かっぷる。どうせい。おぁあ…。

そりゃ俺とシキは付き…合って…る…けど、寮の部屋だって一緒だから一緒に住んでるも同然っていうかそうなんだけど、改めて言葉に出して言われるとなんかこう、こう…うあぁってなる…。それに彼の笑顔が太陽くらい眩しい。遊園地ではしゃぐ子どもみたいに嬉しそうに見える。

そうしてシキと、ものすごく今更ながらお買い物デートをすることになった…らしい。
待って。俺ってシキとちゃんと二人きりでデートしたことあったっけ…。実家には一緒に帰ったけど、何だかどきどきする…かも?

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