「………ゴ、ショウゴ」
「んぅ…」
「ショウゴ起きて。遅刻するよ」
「えぁ、シキ…?」
「そう。おはよう寝坊助野郎」
「おはよ…ございます…」
朝。平日。数日の休みを経て、今日から俺の新しい学園生活の始まりである。
起きるのが苦手な俺は目覚まし時計を何個もかけて寝たはずなんだけど、全然起きなかったのかな…。一個も止めた記憶がない。
俺のベッドの端に既に制服姿に着替えているルームメイトに揺さぶられ漸く目を覚ました。
シキに迷惑掛けなかっただろうか。目覚まし時計がうるさすぎて起こしてしまったとか?
もしそうだとしたら登校初日から情けない上に申し訳なさすぎる…。
「ショウゴ朝飯できてる。顔洗って、着替えて来いよ」
「うん。なぁシキ、あのさ、目覚まし時計煩くなかった?」
訊くと彼は何故かパチパチと瞬きをして、煌めくような笑顔で「全然?」と答えた。
やっぱり目覚まし時計三個とも全部壊れてたのかな。新品もあったのに。
「まぁそう気にすんなよ。俺が毎朝起こしてやるから」
「それも申し訳なさすぎる…」
「気にしすぎ。ほら、先リビング行ってるからな」
「うん。さんきゅー」
朝っぱらから何とも言えない目覚めだが、とりあえず言われた通り顔を洗って新しい制服に袖を通す。前は学ランだった制服もこの学園はブレザーのようで、何もかもが新鮮だ。ネクタイの結び方、休みのうちにシキに教えてもらってたけどやっぱり自信がないから、後で見てもらおう。
まだ白くシワのないワイシャツに着替えリビングに行くと、机に完璧な朝食を並べ終えたルームメイトがいた。
キラキラするな…。実家にいた時だって、こんなに朝飯らしい朝飯じゃなかった気がする。パン一枚とか。
しかし机の上には焼き魚、卵焼き、小さめのごま豆腐に味噌汁、そして白米。
………旅館かな?と思うほどのメニューはここ二、三日の休日で見慣れたつもりだったけど、何度見ても見惚れてしまう。
自分自身、制服姿ということもあってかやっぱり身が引き締まる思いになるな。
「おはよう。似合ってるよ」
「あ、ありがと。ご飯も」
「気にすんな。趣味みたいなもんだって言ってるだろ」
彼はそう言うが、作れない側からしたらものすごく尊敬する。ありがたい。その代わり家事で俺が出来ることは何でもやろう。
「「いただきます」」
手を合わせて朝ご飯を頂く。
シキのご飯はやはり何度食べても美味しいし飽きそうにない。おかげでだろうか、あれ以来一度も学食へ行っていないくらいだ。
「美味いか?」
「んまぃ…天才…」
「ははっ、褒めすぎ」
「そんなことない…て、あれ」
ちらっとキッチンの方を見ると、チェックの布に包まれた物が二つ、色違いで置いてあるのに気づいた。
なんだろう。お弁当っぽいサイズ感。
「あー、アレ。一応弁当。ショウゴの分も作っといたんだけど、俺の分のついでだから気にしないで」
「え、なんで?」
「なんで、とは?」
「気にしないでって。するよ!ありがたいよ!寧ろこんなにしてくれて大丈夫か?てくらいありがたいよ!?」
「そっか…。でも学食とか行きたかったら…」
「シキは学食苦手なんだろ?じゃあ、お弁当一緒に食べようよ。あ、友達いるか…」
「食う」
「え、」
「お前と一緒がいい。一緒に弁当、食ってくれる?」
ちょっと食い気味に返事をされて思わず顔が綻んでしまった。いい奴だな。
「ふふっ、もちろん!あ、食費」
「また今度ね」
そう笑うシキだが、初めは全く受け取ろうとしてくんなかったんだよな。初めはってまだほんの数日前だけど。
どうしても受け取ってくれないなら断食するぞって脅したらやっと、やれやれといった感じだが一食分にかかった材料代を教えてくれ、その半分は受け取ってくれることになった。
作ってもらってるのに食費も受け取ってくれないなんて、こっちがやれやれだよ。
ちくしょう、今日も美味いなぁ。
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