mitei あてにならない | ナノ


▼ 46.side-シキ

side.シキ

「それにしてもシキくん?だったかしら。あなた本っ当に綺麗な顔してるわねぇー!すごく声掛けられたでしょ」

「それがさ母ちゃん!シキったらすごいんだよ!めっちゃ道に迷ってる人とか助けてたんだよ」

「ほう、そうだったのかぁ。えらいなぁ」

「………」

「………」

ちらり、とショウゴ兄…リュウさんだったかな…がおれを見る。無表情だが、大体何が言いたいかは分かった。
「おめぇどうせそれ全部ナンパの類いだろ」みたいなこと思ってんだろうな。この兄も兄で、弟とはベクトルが違うが結構分かり易いひとのようだ。
ちなみにショウゴ母はどうだか知らないが、父の方はそれがナンパだとは分かっておらず、おれが本当に人助けをしたと思っているみたいで…。ショウゴの純粋さは父親譲りなのかもしれないとしみじみ思った。

わいわいと、おれが話さなくても勝手に進んでいく会話。ショウゴの性格からしてもっと落ち着いた雰囲気を想像していたが、思っていたより結構賑やかだ。
主に話しているのはショウゴ母だが…誰の表情からしてもやはり温かい家庭らしい。まぁ一人は除いておいて。

あの敵意剥き出しの握手の後、家に入り、リビング兼ダイニングらしき場所に通された。
おれは一瞬「これが普通の家庭の広さか…」なんてぽかんとしてしまった。何せおれの知っている家とは全く何もかも違ったからだ。
広さも空気感も、そこにある温かみも。おれとしてはこちらの方が好ましい。ような気がする。そんなことを言うときっとあの親父はウザッたらしく泣きついてくるだろうか。いや、何も言わないかもしれない。
おれの小さな頃から忙しく家を空けることが多かった親父は、だからこそ今ではあんな感じになっていたのかもしれない。知らんけど。とりあえず親父のことは一旦いいや。

そうして今はおれは四人用のダイニングテーブルに座り、左隣にはショウゴが座っている。正面には左からショウゴ母、ショウゴ父が居て。…そして俺の右隣、お誕生日の主役が座る席には、どこかから椅子を持ってきたらしいショウゴ兄が鎮座していた。
何でおれの隣。何でこの距離。何で?正面のショウゴ父と、左隣のショウゴからはほわほわオーラが漂っていて癒されるのに、右側からの圧がすごい。ここだけ空気おかしい。換気していいすか?なんて初めて訪れた家で訊けるほどの度胸はおれにはない。
大体換気どうのこうのでどうにかなりそうな感じじゃないし。ちらっと顔を見てみても眉間の皺すごすぎてショウゴと顔が似てんのかも判別しかねるし。

そんな彼に誰も気づいてないのか、それとも気づいていてスルーしているのか、それは分からない。
とりあえずおれたちは持ってきたお菓子を出して、学園での生活についてあれこれ話に花を咲かせた。

ゴゴゴゴゴ…という擬音でも聞こえてきそうなオーラを駄々漏らしながらも、兄も会話には時折返事をしている。恐らくショウゴが嬉しそうに話しているからなんだろうな…。
それは分かるよ。分かるけど。

「そんでね!(カシャッ)食堂とか講堂とかすんごい広いんだよ。(カシャッ)多分一人だと迷ってただろうな」

「そうかぁ。(カシャッ)迷ったことはないのか?」

「ないよ。(カシャッ)いつもシキが案内してくれるから」

「ふうん………」

気持ちはね、分からんでもないの。でもさ、おれを睨まれたって困るよ。あと何が一番困るって、ショウゴが話す度おれの右隣ですげーカシャカシャいうことだよ。さっきからカシャカシャ言ってたのは別にみんな口で言ってたワケじゃあないんだ。
兄が隠しもせずスマホを構えてショウゴの写真を撮ってるんだよ。おれ越しに。せめて無音アプリ使えよ、とか思うけどそこじゃないよな。
一分一秒でもその姿を見逃したくないとかいう気持ちも分からんでもないよ。でもTPOはさすがのおれでも弁えてるよ…。
あと逐一睨むのやめてください。睨むか写真撮るか弟見てデレデレするかどれかにしてくれ、忙しいお兄さんだな全く。

「兄ちゃん、写真撮るのやめてよ。シキですらドン引きしてんじゃん!」

「え、おれですらって何?ショウゴおれのことどう思ってたん?」

「そうよリュウ、あんたいい加減弟離れしなさい。あとシキくんが映ってたらあとで送って」

「お母さん?別にいいですけどおれの肖像権は?」

「ごめんなシキくん…あとでちゃんと叱っておくから…」

「あ、全然大丈夫ですお父さん。お気遣いなく」

この家族で一番まともなのショウゴとショウゴ父では?ショウゴ母に至っては冗談なのか本気なのか分かんねぇな…。まぁ別に写真くらい撮られ慣れてるけど…。
………お?おぉ?

ちらっとまた兄の方を窺うと、意外にも彼は眉間の皺を消してしゅんとした様子だった。

「すまんシキくん。これはガチで無意識だった。久しぶりの弟を摂取したくてつい…」

「は、はぁ…」

せっしゅ。摂取?というか素直に謝られた。マジでガチで無意識だったらしい。おれへの嫌がらせじゃなかったのか。
じゃあ睨んできたのは?あ、表情がまた険しくなった。完全におれのこと敵認定してんのかな。やだなぁ。

「ごめんなシキ、疲れてない?うちの家族賑やかだろ」

「うん。すごい楽しいよ」

「シキくんいい子ねぇ!ショウゴはどう?学校でちゃんとやってる?」

「もちろん!すごく頑張ってますよ。何に対しても真っ直ぐな姿勢は、おれも見習わないとなっていつも思います」

「シキ…」

「あらまぁ!何だかこっちが照れちゃう!ね、あなた!」

「あぁ。そうだな」

「………ショウゴ」

あ、兄が遂に口を開いた。謝罪以外で。一体何を話すんだろう。

「どったん兄ちゃん?」

「学校は、楽しいか」

「うん!めっちゃ楽しいよ。毎日充実してる。シキがいるから」

ちらりと投げられた視線と言葉に、胸がいっぱいになる。嬉しいとか愛しいとか、そんな感情以外のものも混ざって綯い交ぜになって、ご家族の前だってことも忘れて抱き締めてしまいそうになる。
「おれも」って短く返すと、彼は恥ずかしそうにはにかんだ。あぁやべ。ここがいつもの部屋ならマジでぎゅってしてた。

「二人、随分仲良いのねぇ。シキくんとは学校でずっと一緒に居るの?」

「うん。それでさ、あのね。シキ、」

ショウゴがまたちらりとおれを見た。先程とはまた違う眼差しで、何かを確認するように。すぐに何が言いたいか分かって、おれは無言で頷いた。
「いいよ」って、心でも伝える。

「あのね、俺たち付き合ってるんだ。こいびとなんだよ」

「あら…。あらあらあらぁ!やだぁもう!!本当に!?」

「そうだったのかぁ」

「………チィッ」

驚くショウゴ母、テレビの雑学にでも頷いているようなショウゴ父に、右隣からのすんごい舌打ち。今にもメリケンサック付きの拳が飛んできそうなオーラがすごい。
が、ショウゴにばかり言わせっ放しにするワケにもいかない。

「改めまして、息子さんとお付き合いしています。ヤツガミ、シキです。よろしくおねが、」

「ちょっとシキくん!!!」

「あ、ハイ」

一瞬怒られんのかなって思うくらいの剣幕だった。ショウゴ母が半ば身を乗り出しておれにぐいっと顔を近づける。何を言われるんだろう。

「あなた、あなた本当にショウゴでいいの?私が言うのもアレだけど、この子本当に、本っっっ当にウォー○ーよ!?」

「ウォ、○ォーリー…?」

「どこにいても紛れられるってこと!それくらい平々凡々よ。小学校の体育祭の時なんか、間違えて別の子を応援しちゃったこともあったわ…」

「あったなぁ」

「あれは俺も結構傷ついたよ」

「俺はどこにいても見つけられるぞショウゴ!!」

「兄ちゃんちょっと黙っててゴメン」

「すまん…」

「あの、えと…つまり?」

「見た目で判断したくはないけれど、確かにうちの子は優しくていい子に育ったと自負してるけれど、やっぱり心配は心配なの。あなたはショウゴのこと、本当に好きなの?」

「………」

家に来てから初めて見た母の真剣な眼差しに、おれも自然と背筋が伸びた。やっぱり、似てるなぁと思う。ここは他でもない、ショウゴの家なんだ。
ここ以外どこにもいない、ありふれてなんかいない、たったひとり大切なひとの家なんだと思うと自然に涙が出そうになったが、何とか堪えておれもしゃんと向き合った。
左手に、繋ぎ慣れた手を重ねた。すぐに握り返してくれる。この家に入る時みたいに、不思議な力が流れ込んでくるようだ。

「彼しかいません。おれには、彼しかいない。初めて会った時からずっと惹かれていました。好きっていう言葉が適切なのか分からないけれど、おれにとって一生を共にしたいくらい、大事なひとです。彼が赦してくれるなら、ずっと傍にいたい」

「あ、うぁ………」

暫しの沈黙。おれは自分でも何を言ったのかもう覚えていない。変なことを口走ったりしていないだろうか。おかしなことを、嫌われるようなことを言ったりはしていないだろうか…。
心配になって左隣を見ても、真っ赤になったショウゴがフリーズしているだけだ。え、そんな照れること言った?
正面を見ると、両手で顔を覆いおれと真っ赤になって俯く息子を見比べるショウゴ母と、ぽかんと口を開けたままのショウゴ父が。そして右隣を見ると…。

「………うっ、ぐずっ、うぁぁぁああんっ!!」

「え、え、えぇ?」

待って追いつかん。理解が追いつかんわ。どういう状況…?え、号泣してるの、誰これ…。

「あんた………すごい子捕まえたのね………嘘でしょ」

「シキくん、君、本当にカッコいいなぁ…」

まだ顔を手で覆ったままのショウゴ母、感心している様子のショウゴ父。

「………うぅ、何か恥ずい」

「あの…ショウゴ、おれ何かまずいこと言った?」

とりあえず右隣は無視して、左隣で俯く彼に向き合った。耳まで真っ赤で、涙目になっている。その潤んだ目がおれを見上げると、何かを言いたげに口をパクパクさせていた。

「あの…シキさん…」

「うん」

「さっきのって、さっきのってさ…」

「うん?」

「俺の気のせいかもなんだけど、まるでその、何か、なんていうかね…」

「プロポーズだよっ!!!」

「うわっびっくりした!」

びっくりしすぎて思わず素が出ちゃった。ショウゴの言葉を遮っていきなり叫んだのは他でもない。未だに涙やら鼻水やらで顔をぐずぐずにしたショウゴ兄…リュウさんである。
マジでビビッた。とてもかなりすごくびっくりした。情緒どったん。時差ボケですかい。てか。

「ぷろ…?」

「お前、まさか無意識か!?俺より質悪いなオイ!!」

あ。まじか。おれそんなこと言った?それは確かに無自覚で写真撮るより質悪い…のかな?

「まさかこんな漫画みたいなことになると思わなかったわ…」

「そうだな…」

「俺も自分のことながらびっくりしてる…」

「あの、」

「執着一途ぜ…じゃないやシキくん」

「しゅ…何て?」

何を言うべきか悩んでいると、どうやら元気になったらしい右隣から声が掛けられた。もう一回無視したい。あと突然のことすぎてまた反応追いつかなかった。

「シキくん、君、お酒は飲めるかい」

「まだ未成年です」

「今晩付き合え。追い返そうと思ってたけど、気が変わった」

「おれまだ未成年です」

「とことん付き合ってもらうからな!!!」

「聞いてますか、おれまだ未成年なので、飲酒はちょっと」

聞こえてない感じ?何か面倒くさい予感。泊まれるのは大歓迎だけど、一晩中この人と一緒ってのはちょっとな…。

「なぁショウゴ、どうしよ」

「あ、えぇと」

「それがいいわねシキくん!泊まっていきなさい!」

「連休だしなぁ。明日またこの辺案内するよ」

「お願いします」

やべ、ショウゴ父の願ってもない聖地巡礼ツアーのお誘いについ秒速で頷いてしまった。
ショウゴはというと、おれの顔を見てはかあぁっと顔を真っ赤にさせている。かわいい。たまらん。こりゃ写真撮るわ。だきしめたい。
結局ここに来た当初より歓迎ムードが強くなったらしいナナミ家におれは泊めさせてもらうことになった。

ショウゴの部屋見られるかな。

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