mitei あてにならない | ナノ


▼ 42

「………んぁ?」

早朝、珍しくシキに起こしてもらう前に目が覚めた俺は、ピコピコ光るスマホに気づいた。
そうして珍しくはない人物からの、珍しいメッセージで寝惚けていた頭が一気に覚醒してしまった。

「まぁじかぁ…」

シキが起こしに来るまであと一時間くらいはある。やっぱり眠いので、俺はもう一回寝た。



「はよ。今日は特に芸術的な寝癖ですよ」

「んんー…。今日は日曜…」

「平日なんだなぁ」

やがてピチピチと鳥が囀る朝になり、気づいたらベッド脇にもう制服姿の彼が座っていた。
そうっと伸ばされた手は慣れた手つきで俺の髪を梳いて、同じところを何度も撫で付けては跳ね返す様子にクスクス微笑った。

ううん、朝から眩しいなぁもう。

「ほらほら、朝ご飯が冷めちゃいますよー」

「起きる…おはよう」

「おはよう」

今日も爽やかな笑顔だこと。

ベッドから腕を引かれて引き摺り出されて、部屋を出て顔を洗って、なるほどこれは芸術的な寝癖だと感心してからシキの待つテーブルにつく。
「いただきます」と手を合わせていつも通り美味しすぎるご飯を食べているとふと思い出した。

そうだった、忘れるとこだった。

「あのさシキ」

「なに?おれもショウゴのことすきだよ」

「んー!まだ何も言ってないのに突然の告白!」

「お茶飲んでないときに言ったろ。優しさだよ」

「ごめんね優しくなくって。そうじゃなくて!」

「え、おれのことすきじゃないの?」

「う…えと…ちが、今はそういう話じゃなくってってことで…」

「………」

キリッとした無表情で、逸らすことなくじいっと見つめられてしまえば単純な俺はすぐに降参してしまう。
最近知ったことだけど、俺はシキの真顔に弱いらしい。何か全部見透かされてる気がして。

「………そりゃもちろん、あの、す…きですけど」

「まぁ照れ顔かわいいからよし」

こないだのことまだ根に持ってんだ…。しつこい。
朝からまた見事にシキに惨敗した俺は顔を真っ赤にしつつ、ハッと言いかけていたことを思い出した。
危ない危ない。

「で、話とは?」

「俺、突然ですが実家に帰らせていただきます」

しん、と静寂の空気が流れる。するとシキは一瞬だけ、ほんの僅かに目を見開いてすぐに真顔に戻って口を開いた。

「おれが悪かったよハニー、だから帰って来てくれ」

「いいえダーリン、あなたとはもうやってられない。もっとちゃんと反省してから言ってよね」

「何だよ、他に好きな奴でもできたのか?」

「実は…」

「は?誰だよそいつ」

カーット!カットですよ。そんな形相見ちゃったらテレビの前のちびっ子が怖がっちゃうよ!

「突然ヤンキー出すのやめてよ、普通に怖いよ。あと俺まだ居るとも何とも言ってないよ」

「あ、ごめん無意識」

「圧がね、違うんだよ」

「いやぁ、嘘でもお前がおれ以外のやつとって思ったら…あ、無理」

「自分から始めたくせに…」

ドラマとかでよく観る、喧嘩したふうふごっこ的なアレ。
「実家に帰らせていただきます」って言い方が悪かったのかな。冗談だったんだけど…。
でも冗談でも洒落にならんらしいってのが分かったからもうちゃんと言う事にしよう。俺の説明不足だった。てかちゃんと説明させてくれ。

「ちなみにショウゴさん、おれ以外に好きな奴は?」

「さっき俺に言わせたこともう忘れたん?疲れてんの?」

「そっか、悪い。そうだったな。大丈夫。バッチリ録音してるよ」

「そっか、ならいいや」

シキってば割と冗談好きだよなぁ。録音とか、マジではしてないと思うけど。
おっといけない、これ以上話が逸れる前にちゃんと説明せねば。

「まぁ、とりあえず俺は実家に帰るんですけど」

「監禁していーい?」

「換金?俺ん家は日本だよ?」

「はーい優勝!ショウゴくん全宇宙かわいい部門優勝です。はぁーあ!かわいいはヤンデレも制す…」

「えっ、シキってヤンデレだったん?」

「何で監禁は駄目でそっちは聞き取れたん?お前の知識の範囲どうなってんの」

「兄ちゃんの漫画に載ってた」

「そっかぁ…」

何やら考え込んでしまったシキを余所に、俺ははたと気づいた。もしかして「かんきん」って。

「シキ、さっき換金じゃなくて監禁って言ってた!?」

「ん?いや?お金を換える方だよ」

「そっかぁ」

びっくりした。シキからそんな言葉が出るなんてって一瞬焦ってしまった。いやおかしくはないかも。
でもあんまそういうイメージないな。まぁいいや。全然話が進まないな。

「でね、忘れる前に話させてお願い」

「すんません。正直離れるのが嫌で邪魔してました続きをどうぞ」

「え、あ、そう…。じゃなくて!その心配はないかも」

「と言うと?」

「今度の連休、空いてますか」

シキのヤンではないデレに照れながらも俺はちゃんと訊くことができた。えらい。
そうして目をぱちくりさせてきょとんとしたシキは、すぐにへらりと笑って「もちろん」と答えてくれた。
一瞬、ほんの一瞬だけ険しいヤンキーの顔が垣間見えたのは俺の気のせいだろうか。

まぁ気のせいか。今はすっかりいつも通りみたいだし。

俺が早朝に確認したメッセージ。それは紛れもなく兄ちゃんからのもので…。
いつもはきちんと全部読むのが面倒なくらいの長文を寄越すのに、今回はたったの二文だけだった。スタンプもなしで。

『次の連休、家に帰って来なさい。ルームメイトくんも連れて』

何度確認しても、いつものおちゃらけた感じがしない。俺怒られるのかな。怒られるようなことしたっけ。
というか今更だけど、兄ちゃん日本に帰って来てんのかな。いつ帰って来たんだろう。

そしてなぜ、シキも連れていく必要があるんだろう。シキと会いたいってことだろうか。あの兄ちゃんが…。

「おーい、ショウゴくーん」

「はっ!ちゃんと聞いてました!」

「うん聞いてないひとの台詞だね。嬉しくないの?家に帰るんだろ」

「いや、嬉しい…けど」

兄ちゃんに会うのも久々だし、そりゃもちろん嬉しいのは嬉しいけど。兄ちゃん、俺から見ても過保護っぽいところがあるからなぁ…。あの文章もいつもと違ってちょっと怖かったし…。
シキを連れて行ってもしケンカになっちゃったりしたらどうしようとか、一瞬でも考えてしまった。

こんなのシキにも兄ちゃんにも失礼だ。だとか、色々ぐるぐる考えていると。

「楽しみだなぁ、ショウゴのお家」

「え、ホント?」

シキが呟いた言葉に顔を上げた。
またじいっと顔を見つめられながら微笑みかけられると、自然と不安なんて全部吹っ飛んでしまう。

「嘘、言ってるように見えるか?」

「………ううん」

「なぁ、色々案内してな。お前の通ってた学校とかさ」

「見てもつまんないよきっと」

「いいや、聖地巡礼」

「せ…?」

「それは辞書になかったかぁ。かわいい。最優秀賞受賞おめでとう」

「やったぁ、ありがとう…?」

何の最優秀賞?とは思ったけどシキが本当に楽しみそうだからまぁいいか。
そうして俺は二人ともいけるよと、返信のメッセージを打った。

ちなみに既読は秒でついてびっくりした。やっぱり日本にいるのか。時差ないのか。
でもあの兄は時差があろうとなかろうと俺の送ったメッセージにはすぐに既読をつけるので、結局どっちか分かんなかった。

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