side.others
「あの………大丈夫ッスか?」
「すいませんでした…オレらのせいで」
「あのー?」
「………」
とある日の放課後。
各々の部活動に励む声が聞こえる校舎の裏で、数人の生徒たちに心配されながら俯く美少年がいた。
部活動を抜けてきたのだろう生徒たちの声にも反応せず、その美少年は先程自身の身に起こっていた出来事を思い出していた。
「ヤツガミくんに呼び出された…」
授業が終わって少しした頃。廊下で声を掛けられ、またあの美声で自分の名前を呼ばれたと思ったら「着いて来い」だなんて腕を引かれて…。
呼び出された…あのヤツガミくんに…僕が…。
「ヤツガミくん…いい匂いした…呼び出し…夢?」
「え、そこッスか」
「そんな甘い雰囲気じゃなかった気が」
「コラお前!余計なこと言うな!」
「あぁ、ヤツガミくん…」
周りの反応も全く気にせず、美少年は顔を上げるとほうっと感嘆の溜め息を吐く。
確かに今回の呼び出しは、告白だとかそんな甘いものとは程遠かった。
いつか自分がしたことの尻拭いをさせるために、彼はこの少年を連行したのだ。
いつしか恐怖を感じた憧れの人はあれからも度々クラスで気にしてはいたけれど、また間近で接する機会が少年の心に燻っていた小さな熱を再燃させたようだ。
けれどそれは恋慕の情ではない。ふと少年は気づいてしまった。
「あぁ…マジであんな平凡のどこがいいのかまだ全っっっ然分かんないけど、それでもやっぱり」
今日、斜め下から覗き見ることができたあの真剣な眼差しは、多分あの平凡なしでは見られなかったものだろう。ムカつくなと少年は思う。
だけど。
ただひたすらに、格好良い。
容姿がとか、オーラがとか、スタイルが格好良いというだけでなく。
何かを守ろうというあの今まで見たことがなかったような真剣な眼差しが、少年にはとても眩しく映ったのだ。
「うん、やっぱりファンはやめられそうにないや」
「「「え」」」
「というワケで、僕はこれからあの二人!いい?あの二人を応援するから!!彼の隣が僕じゃないのはまだ不本意だけど、僕にあの表情は作れないからなぁ…」
「マジでいいんスか?」
「オレは断然あなたの方がお似合いだと思うけどなぁ」
「でも怖いよ…ヤツガ…あの人」
「いいのっ!!!」
少年は愛らしい目をキッと鋭くし、周りの生徒たちに強く言い含める。
「だからお前らも!もう絶対の絶対に余計なことはしないで!!分かったっ!?」
「「「はぁい…」」」
渋々といった感じで頷く生徒たちもまた、先程までの出来事を思い返していた。
………まぁ確かに、もう何も嫌がらせなんてする気は起きないが。
ふふふっと頬を緩めた少年は、ほんの少し前まで抱いていた感情とはまた全く別のものを手に入れていた。
これまで勝手に「ヤツガミ シキ」という人物像を作り上げて崇拝していたけれど、今は違う。
彼も一人の…それも自分と同じ年齢の人なのだ。
あの見目麗しく誰からも好意を持たれる彼が、それなのに誰にも興味すら示さなかった彼があんなにも真剣にたったひとりを守ろうとした。
その光景を思い出しては、まぁほとんどは自分のしでかしたことのせいなので大口を開けては笑えないのだけれど、それでもどうしたって嬉しく思ってしまう。
「せいぜいもっといい顔見させてよ…。じゃないと僕が奪っちゃうから」
少年の企みなど知る由もなく今頃あの二人はイチャついているのだろうなと思うが、それでももう腹立たしい気持ちにはならなかった。
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