mitei あてにならない | ナノ


▼ 37.side-シキ

side.シキ

『掃除、ちゃんとできてなかったみたいだよ』

昼休みにショウゴに促され、渋々見た親父からのメッセージ。
たったの一行だが一見して何のことかすぐに分かった。が、ショウゴに悟られる訳にはいかない。

それにしても、一応自分の学園の生徒をゴミ呼ばわりとは。直接的には書かれていないが、この比喩からはそんな意味合いも受け取れる。
あーあ、折角この前キレイにしたと思ったのになぁ。頑固汚れ。まだ残ってたのか。

後で詳しく聞けば、どうやらこないだおれが一掃した体育会系グループがまた何か良からぬことを画策しているのが防犯カメラに映っていたらしい。
空手部やら柔道部やら、中には剣道部の副主将まで。そいつらはおれの元信者…みたいなあのストーカー勘違い野郎の手下で、元信者がおれに、それはもう傷つけられたと腹を立てていたようだ。

いや知らんがな。
寧ろ危害を加えられそうだったのはこっちだと言うのに心外である。

だがこのまま放っておけばショウゴにまた危害が及びかねない。寧ろショウゴが真っ先に狙われるのは想像に固くないだろう。

おれの大事なもの。
おれ自身よりも、彼に手を出そうとする卑劣な奴ら。

本来ならばいつものように、文字通り立てないようにして恐怖を植えつけ、力で制圧するのがおれだった。
気づけばいつもそうしてきたし、浅はかなおれはそれ以外のやり方を知らなかった。

だが今回、親父がおれに下した指令はこう。
「暴力を使わずに解決するように。出来なければ、もうショウゴくんには会わせてやんない」

あんのクソ親父…。ぶっちゃけふざけんなと思った。だけど理不尽だとは思わなかった。
あいつは、親父は昔からそういうところがある。表ではヘラヘラとして人好きのする態度を見せてくるくせに、腹の中では何を企んでいるのかさっぱり分からない。
気味の悪い笑みは崩さず、時折ふざけた態度も見せながら相手を油断させ、そうやって自分は格下だと錯覚させて相手の弱味を握り、隙を突くのだ。

狡猾で底意地が悪く、陰湿なところもあるので面倒臭い。敵に回したくないタイプ第一位だ。おれ調べで。
だからちょっと苦手なんだよなぁ。単純に絡み方がウザいってのも大いにあるが。

『やっほーシキくん!メッセージ読んだぁ?』

「読んだ。本題」

そんな親父と、ショウゴが会う前に一度電話をした。
電話越しの声は相変わらずウザイいのに、真剣な話をする時に意識的か無意識か、空気が切り替わる時がある。
親父の、そういう相手との接し方というか、話の流れの主導権を握るところとかはまぁ、さすがと言うべきか。
そういうところは何だか、無駄におれより長く生きているわけじゃないんだなぁと思わなくもない。

『…と、いう感じでね。全部が全部お前が悪い訳ではないんだけど、まぁお前もちょっと悪いからなぁ』

「うん。自覚はある」

『あの子達も一応、うちの大事な生徒なんだ。いくら血縁とはいえ、お前だけを贔屓することはできない』

「………わかってるよ」

『うん。ちゃんと理解してくれてるならいい。それでも特別扱いしちゃうのはきっと僕がお前に甘いからだなぁ。反省反省っ!』

「本題は」

『ま、言わなくても分かってるだろうけど。シキ。今回の件然り、暴力でしか解決できないのはまだまだ未熟な証拠だ。こんなやり方じゃ、また悪循環を引き起こしかねない』

「………」

『いいかいシキ、彼を本当に守りたければ頭を使いなさい。大丈夫、お前なら出来るよ。お前は頭が良いからね。僕に似て』

「………。一言余計」

やっぱりまだまだ未熟なことを実感しながら、それでも、と拳を強く握る。
笑ってくれるためなら、何だって出来るよ。本当なんだ。

だけどショウゴを守るためには物理的な強さだけじゃあ足りない。気持ちだけあっても意味がない。それは常々感じていたから、恐らくそういうことも見越して親父はおれに指令を下したのだろう。
ショウゴを餌にすればおれが必ず食いつくと知っていて。本当に我が親ながら狡猾で腹の立つ限りである。
いつか絶対に追い越してやるからな…と密かに思っていることも多分見抜かれているし、多分楽しまれてすらいる。
そういうところもムカつく。だから重要そうな連絡以外は基本既読無視だ、無視。

ささやかな反抗だが、今はこれが精一杯。
きっと学校中に防犯と称して監視カメラを張り巡らせているあいつには何もかもお見通しなんだろう。

ショウゴと親父が会っているということに若干イライラしながら、おれはいつかの元信者を引っ張り出して理事長室とは離れたところにいた。
あいつは…名前忘れたけど、いつかおれとショウゴの仲を邪魔しようとしたクラスメートは大人しくおれの言う事に従った。そうして親父から手に入れた情報で渋々運動部の部室棟へ向かう。

手も足も出さないって難しいな…。おれは、今まで散々他人のことを見下してきたけれど、こんなんじゃあおれも一緒…いや、それ以下だとすら思ってしまった。
ふと過る、あの声。こんなことを口にしたらショウゴはきっと本気で怒る。
…怒って、くれる。

駄目だ、帰ったら思いっ切り抱き締めさせてもらおう。

自分自身を蔑ろにして怒ってくれる彼を、どこまでもおれを大切にしてくれる大切な存在を、どうして手離すことができるだろう。
そうして親父の言いつけを守ったおれは、一直線に理事長室へ向かった。どこかで親父が「計算通り」とでも言ってほくそ笑んでいる気がしないでもなかったが、おれにとってはそんなこともうどうでもよかった。

それからおれを見つけた時の、彼の嬉しそうな顔と言ったら。胸が温かいものと醜い感情でいっぱいになる。
こいつが来てからというもの、おれの心も身体ももう空っぽになる暇がないったら。

何があったかは知らないだろうに、理事長室からの帰り道、ショウゴはきっとおれの疲れに気づいていた。
だから強められたのであろう手をおれもぎゅっと握り返す。やっと堂々と気持ちを伝え合える関係になった存在をどうやって守るか考えなければ。ずっとずっと、考え続けなければ。

強くなりたいんだ。ショウゴみたいに。
彼がいつもそうしてくれるように。彼の身も心もすべて、何ひとつ傷つかぬように。

本当は閉じ込めて。繋ぎ止めて。彼の世界を占領したい。いっそおれしか見えないようにしてしまえたら楽だろうか。

でもそれじゃ駄目なんだ。大勢いる中でおれだけを選んで欲しいし、彼の世界そのものになれたらなんて思いはするけど、彼の大切なものも同じように大事にしたい。お義兄さんはちょっとまだ難しいけど。
彼を閉じ込めたところできっとおれの願いは叶わないから、ムカつく親父も利用してできるだけ彼の世界に溶け込んでやろうと思う。

そうしていつか、ショウゴの世界そのものに匹敵するくらい彼にとって大切なものになれればいいのにな。
同じ重さは求めていないなんて言ったけれど。

せめてそれくらい、きみの中にいさせて。

「シキ、帰ったら充電しような」

「もう、この子ったらどこでそんな言葉覚えてくるんだよ…。さては親父か?」

「シキがいつも言ってる」

「おれかぁー」

日に日におれ色に染まっていく彼に僅かに優越感を覚えながら、部屋に戻ったら早速深いのしてやろうかな、なんて意地悪な考えが浮かぶのだった。
まぁ、キスならば躊躇無くしてくれるみたいだし。まだ恥ずかしがるけど、とりあえずはおれの今までのスキンシップの賜物かな。

本当は彼が嫌がってないことも分かってるよ。
おれはそれが嬉しくて、だけど同時に、やっぱりまだ怖くて。臆病でごめん。

すきだよ。だから、こわいよ。でも、こうしてくっついていればきみの温度できっといつか溶けるだろうから。
それまでもうちょっとだけおれの臆病に付き合ってね。

あと、意地悪いのはおれも親父と一緒かも。ゴメン。

「はっ、………元気、でた?」

「…ううん。もうちょっと」

もうちょっと。もっと。もっと。

まぁ、顔を見た瞬間からもうとっくに元気出てたんだけどね。とはまだ、言わないでおく。かわいいし。

「………なぁ、もう元気だろ」

「うんゴメン。でももっかい」

「とくべつだかんな」

「うん。やっぱすげぇすき」

これだけ温かければ、雪解けももうすぐかもしれないな。

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