mitei あてにならない | ナノ


▼ 19.side-シキ

side.シキ

「…ただいまぁ」

「シキおかえり!!大丈夫か?」

カードキーで扉を開き、力ない声で帰宅を告げればパタパタと廊下の向こうから彼が走り寄ってきた。愛い。何この天使。

あぁ。たった小一時間離れていただけでこれなんだから、もうどうしようもない。
色々話さなくちゃ、伝えなくちゃいけないことがあるのに言葉が上手く出てこなくてただ、迎えてくれた心配そうな顔に自然と手が伸びた。

「シキ…?やっぱすんごい疲れてる…?」

「やっぱり、超好きだわぁ…」

「だ、大丈夫か…?」

「…んー。あ、約束」

「えぁ」

とりあえず、待ち焦がれた体温を思い切り腕の中に掻き抱く。匂いも嗅いで、髪にこっそり口づければ次第に心身ともに回復していく心地だった。

「と、とりあえずリビング行かない?」

「んー。寝室でも可」

「それは、不可ですかね…」

まだ駄目かぁ。
疲れきった頭でそんなことをふんわり思いながら、促されるままリビングのソファーへと移動した。手繋ぎもいいけど、もっと欲しい。
突然の姫抱っこに動揺したらしい同室者にはさんざん暴れられたが、ソファーに腰を下ろせば彼は大人しく約束…『公認スキンシップ』をさせてくれたのだった。

「あぁー。落ち着くぅ…」

「風呂上がりのビールみたいな扱い…」

「いや、どっちかっつーと抱き枕」

「…そっすか」

リビングのソファーで向かい合って抱き合いながら、彼の肩口に顔を埋めてふうっと息を吐き出した。そのまま深呼吸すれば、焦がれた匂いが全身に染み渡っていくようで、心地好くて、微睡んでしまう。

だめだ…。
話さなくちゃ。早めに言わないと、決意が鈍くなる。このまま言ってしまおうか。今なら、さらっと何でもないことのように言ってしまえる気がする。

そう決心して顔を上げ、向き合うとやはり心配そうに眉を下げてきょとんとしている彼がいた。

「あ、むり」

「え、大丈夫か?」

「ちょっと待って…。まって」

「あの、本当に大丈夫…?ベッドで寝る?」

「ショウゴも一緒?」

「そのオプションは、付いてないっす…」

「はあ、いくらですかぁ」

「いくら積まれても、ちょっと…。今後検討しますんで」

「検討するんだ…」

ふっと思わず口角が上がるが、ちょっと待って。暫く脳内パソコンをフル回転させて、今のが結構な衝撃発言であったことに気がつく。

それって…脈アリじゃね?

だってそういう、ううん?あれ、ちがう?
だめだ分からん、いや絶対脈アリだ、絶対そう。本人は気づいてるか知らんけど。

まじまじと間抜けな顔を眺めているも、特に変化なし。ただちょっと気まずいのか、居心地悪そうにもぞもぞ動く身体の振動だけが伝わる。結局どっちなんだか。
とりあえず、この時間いつまで続くんだろうって顔をしてるのは分かる。

「あのですね、シキさん。この時間いつまで続くんでしょう」

ビンゴかぁ。

「もうちょい。おれの気が済むまで」

「それいつなの」

「んーと、分からん」

「あと10分」

「1時間」

「さ、30分!」

「しゃあねえなぁ。じゃあ1時間で」

「変わってない!!」

耳のすぐ近くで遠慮のない抗議が響くが、これでも大分譲歩したので許してほしい。
とりあえずその後言った通りの時間きっかり充電し、嫌々ながらも腕の中の温度を解放して、おれは晩ご飯の支度に取り掛かった。

疲れたおれを心配してか、頑なに「俺も手伝う」と言ってくれたショウゴには悪いけど断ってキッチンを陣取る。
だって折角離れたのに、また近寄られたらおれ自身何をするか分からないからなぁ。
そうして料理で暫し気を紛らわせ、今度こそ彼に話す決心をした。

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