mitei あてにならない | ナノ


▼ 14

まず、朝は彼の声で目覚める。

俺は寝起きが悪い事を自覚しているのでいつも目覚まし時計を何個もかけて就寝しているのだが、朝になってそれらの音を聞いたことはこの寮に来てから一度もない。
スマホのアラームも同じ。
三個だったそれも今では五個に増え、それに加えスマホでもアラームをセットしているというのにそれらが作動しないなんて…。
まさかもう故障したのかと思って昼間に試して見た事があったが、どれも壊れてなんかいなかった。
なのに朝だけ作動しない。或いは俺が無意識に全部止めているとか?
…これも俺的世界七不思議の一つかもしんない。

その代わり、シキの陽射しのような声が俺を眠りから起こしてくれる。
「おはよ、朝飯出来てるよ」とか、「起きないと襲うぞー」なんてたまに物騒なことを言いながらゆさゆさと優しく肩を揺らされ、ううむと上半身を起こせば「よくできました」のキスが落とされる。
それは頬だったり額だったり、寝癖で面白いことになっている頭の上だったり。

もうすっかり習慣になりつつあるけど、この時点でもう彼には甘えっぱなしで恥ずかしいな…。

それから一緒にシキが作った朝食を食べて、シキお手製のお弁当を持って登校。
そういえばたまーに、行く前に俺のネクタイや襟元を念入りに整えて満足そうにすることがあるんだけど…。
俺ってそんなにだらしなく見えるのかな。
そう言えば冬服に変わったブレザーも、新品のはずなのに「ボタン付け直してあげる」と言われて付け直してもらったことがあるし、挙句の果てにはベルトまで見せるように言われたことがある…。
ベルトのどこを直すんだろう。まずほつれるところが無いと思うし、着けていて何の違和感も無かったんだが…それもシキからしてみれば気遣いポイント?の一つらしい。
シキって俺のベルト見たことあるっけ?あ、あるか。着替えてる途中とかに。その時にどこか気になる箇所を見つけたのかもしんないな。

まぁとにかく、その辺りも気をつけなきゃだよな。俺がもっと身だしなみをしっかりしなければ。

学校でも大体、というかほとんど常に一緒に居る気がする。離れてるのは授業中くらいかもしんない…。
俺は別に嫌じゃないけど、シキは嫌にならないのかとたまに不思議に思う。

一度その疑問をそのまま彼にぶつけてみたら、「好きな子と一緒に居たいのは当然だろ」という直球過ぎるご回答を頂いたのでそれから変なことは訊かないようにしているけども。
ああいうことさらっと言ってのけちゃうから困るんだよなぁ。何というか、反応に…。や、じゃないけど何て言えばいいのか分からない。
「ありがとう」も何か違う気がするし…。

そういう時、俺は大抵何も言えなくなって黙って俯いてしまったりするのだが、そうすると何故か彼は嬉しそうにふふっと微笑う。
こないだ、俺の聞き間違いでなければ「…もうちょっとだな」なんて独り言のような声が聞こえた気がするんだが…それについては深く考えないようにしている。
ずるい、かな…。

それからもちろん、帰宅も一緒。帰る場所も一緒だし、ご飯も三食全部一緒だ。
初めはシキにばかりご飯を作らせて申し訳なく思っていたが、いっつも楽しそうにキッチンに立つ彼を見て「好きでやってるから」という言葉は本当だったんだなと今では思う。
向かいに座って、もぐもぐと美味しい手作り料理を頬張る俺をにこにこと眺めては「これも美味い」、「これ自信作」と言って餌付けするみたいにあーんしてくることもある。
それを俺が美味そうに食べるとまた笑って、「ありがとう」だなんて俺の言うべき台詞を奪う。
「どうしてシキがお礼を言うの」って尋ねたら、「こんな風に食べさせられるなんて思ってなかったから」だって。

そう言えば彼は一年くらい一人部屋で過ごしていたと聞いた。食堂にも行かず、部屋で一人自炊していたのだとも。
だからなのかな、そんな風に笑ってくれるのは。

一人じゃない食卓が、彼にとっては特別に思えるのかもしれない。

そう考えると、俺はただ彼が作ってくれる美味しいものを「美味しい」と言って食べさせてもらってるだけだけど、そんな俺でも少しは彼の役に立てているんじゃないかなんて自惚れてしまいそうだ。

あとは、夕食後も結構一緒に過ごすことが多い。それぞれの部屋があって、初めのうちはそこで宿題やら予習復習をしたりだらだらしたりしていたのだが…。
今ではリビングで二人で勉強をしていることが増えた。というより、俺が彼に教えてもらいながら勉強することが増えた。

そして宿題も終わりやるべきことがなくなれば部屋に戻るのかといえばそういうこともなく。
ただ二人して、大きなソファーの上でゆったりまったり本を読んだり映画を観たり、『スキンシップ』をしながら過ごす。
まぁ、本を読む彼の長い脚の間に、俺が座らされたり後ろから匂いを嗅がれたりするくらいだが…これって許していいやつなのか?と最近になって思う。

俺まだ、シキに何の返事もしてないのになぁ。というか「返事は要らない」って言われてるけど。
もう少し、もう少ししたら解るだろうか。

俺にくれてばっかりの彼に何かを返せるようになるだろうか。その答えもまだ探しながら、この心地好い距離感に甘えてしまっている。
「本当にこれでいいのか」と彼の反応を窺う度、満足そうな顔を見て安堵してしまう自分がいる。

「なぁ、俺まだシキに告白の返事なんもしてないのに、急かしたりしないの?」

「なんで?返事は要らないって言ったじゃん」

「でもさぁ…」

「おれのこと、好きになった?」

不敵に彼が笑う。いつもの嬉しそうだとか、優しげな穏やかな笑みでなく、どこか挑戦的なそれに胸の辺りが煩く感じた。

「シキのことは…好きだけど、同じやつかどうかは…その…」

「あっはは!分かってるって。いつも言ってるだろ。この距離感を許してくれてるだけで、それでいいって。………今は」

「いまは…?」

「いつか分かったら、そん時教えて」

「…うん」

また風の音が鳴り始めた。
風呂上りの俺の髪をドライヤーで乾かしながら、愉しそうな彼がまた俺の首元に吸い付いた。

…いや、それはやめろって言ってんだろが。
俺が嫌がることはしないって言っておきながら、こればっかりはやめようとしない彼は何を考えてるんだか。

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