side.シキ
「たーだいまぁー」
「おかえりシキ!………どったの?」
「えぁ?何かなってる?」
返り血ならここに帰ってくる前に綺麗に洗い流したハズなんだけどなぁ、と不思議に思う。
けど彼の視線はおれの顔を真っ直ぐ見据えていて、心配そうに駆け寄ってきた。
「何ていうか…なにかあった?」
「んー…だいすきぃ…」
思わず抱きついてしまう。ホント、そういうとこ。
いつもはびっくりするくらい色んな事に鈍いくせに、こうやってひとの心には簡単に触れてしまうところ。
マジで何なんだろう。天使かな。いや、ショウゴの方がずっと尊い。おれにとっては。
「答えになってないけど…今日掃除当番だったんよな?それなのに何故か急いで俺を寮に戻らせるし、疲れて帰ってくるしでそりゃ心配もするだろ」
「ものすごーくマジメに掃除してきたんだよぉ」
「そうなん?」
「そう。めっちゃ頑固な汚れがあってさぁ」
「言ってくれたら俺も手伝ったのに」
「だぁめ。絶対だめ。汚れるっしょ」
「…?洗えばいいだろ?」
「それ以前に汚れるのがダメなんだよ」
「潔癖だなぁ」
溜め息を吐かれるが、その吐息すらも俺の肩に吸い込まれて心地好い。
そこでおれは名案を思いついた。
「そうだ、一緒に風呂」
「入んねえよ?」
「それはダメだったかー」
「まぁ、嫌な訳じゃないんだけど流石にな。俺って一応お前に好かれてるんだろ?節度は守んなきゃ」
「はあぁー?そうやって変に律儀なとこも好きぃー」
脱力すると、「重っ!」と反発するような声が聞こえた。
ほうらね、好きなとこなんてあげるとキリがない。だから守るのは当然。
おれが傍にいてもいいんなら。
ただちょっと、こうやって癒してもらうことは必要だけど。
「キスマつけてい?」
「うーん…それはちょっと、て、首っ何か当たって…!」
「ん」
「いてっ!というか何か、チリッとしたんだけど!」
「消えなきゃいいんだけどなぁ。毎日つけてい?」
「さっさとお風呂入れ!」
翌朝まできっちり残っていた彼の首筋の赤い花。ちょっと怒られたが然程嫌そうでもなかったので、ちょくちょくつけておいてやろうと思う。
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