mitei あてにならない | ナノ


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とある休日の話。

「なぁシキさん」

「なぁーにぃー」

「今日結構暑いじゃんね。秋っていうか、夏?みたいな」

「そうかなぁ」

「夏は言い過ぎたわ。でもまぁ、その、暖かくはあるよな」

「そうねぇ」

「だからさ、その」

「おれは寒いかもー」

「マジで?」

「さぁ?」

「えぇ、どっち?」

「ふはっ、嫌なら嫌って言いなよ」

「嫌って訳じゃあ…ないんだけどね?」

…必要あります?
この体勢。

そう問うてみるも、彼はやっぱり本から視線を外さないままにやにや笑うだけだった。

突然だけど、このソファーって結構大きいんだよな。俺くらいの身長が一人寝転んでも余裕なほど。
L字型だし、座ろうと思えば多分十人は座れる。
十人は…言い過ぎかもしれないけども、とりあえず体感的にそれくらいの大きさはあるんだよ。

しかし今俺が座っているのはソファーではない。いや、ソファーの上と言えばそうだけど、厳密には違うっていうか…俺の太ももの下にあるのはソファーの布地ではなくて…また別の太もも。

つまりまぁ、何が言いたいかっていうと…。

「ソファーに座るおれの上に、横抱きにされている現状が理解できない、と」

「心を読んだ…!?」

「お顔に書いてるのよ」

「本しか見てないくせに」

「お、やきもちかい?見ていいんならずうっと見るよ?」

「適度で頼む」

放っといたら本当に何十時間でも見つめ続けてきそうなので、そこはスパッと断っておく。

だがやっとパチリと合った視線はめちゃくちゃ嬉しそうに細められていた。何がそんなに嬉しいのか。そして何がそんなに楽しいのか。

それは昼食後のこと。
彼はソファーに座り、本を片手にちょいちょいと手招きをし、そうして近寄っていった俺の手をくいと引っ張って自分の膝に座らせた。
シキの太ももはまぁ、ソファーよりは硬くて、座り心地が好いとは言い難いけれど…。

俺の背に片腕を回して背凭れの役割をこなしつつも両手で本を読むルームメイトは器用だなとしみじみ思う。
俺はシキの両腕の中で、ただじいっとその姿を眺めるだけだ。
俺の両手はどうしたらいいか分からないのでもじもじと忙しなく、自分の膝の上に置かれている。

「あの、脚痺れません?」

「全然?」

「本、読みにくくありません?」

「まぁまぁ」

「…恥ずかしく、ないすか?」

「恥ずかしがってるショウゴくんを楽しんでる」

「なんて奴だ…」

彼曰く『公認のスキンシップ』というのには、この謎の体勢も含まれるのか。そんでもって俺の反応を楽しんでいると。
趣味悪くないか?

手を組んだり離したり指で逆さのカエルさんを作ったりしていると、シキが本から視線を逸らさずに言った。

「手の行き場がないのなら、おれの首に回したらどうかな」

「あ、そっか」

少しの疑問も抱かず、そうすればいいのかと素直に言われた通りにすると何か身体の密着度が増した。
近寄ったシキの耳が心なしか赤い。風邪か?

「おれ、本当にショウゴのこと心配だわ」

「え、なんで?」

「耳元で喋んないでくれ…」

「横暴」

この体勢にもってったのも自分だし、首に腕を回せって言ったのも自分のくせに。

「嫌なら離れたらいいんだよ」

「シキは離れて欲しいわけ?」

「………何なんだこいつホント」

何だ、何故キレられた。理不尽では?

じゃあ離そうかなって言ったら一瞬「マジで?」なんて寂しそうな顔をされた。
くっつきたいのかそうでないのかどっちなんだ。

「…人肌に飢えてんのかな」

「お前に飢えてんだよ」

「ひぇ…」

そういやこいつ俺のこと「好き」なんだった。
こういうこと突然さらっと言われると、反応に困るぅ…。

「おもしろ可愛い反応しないで。勃つ」

「たっ…え?」

俺どんな反応してた?

「すまん何でもない。続けてくれたまえ」

「え、なにを?」

「この体勢を。それで、もし嫌じゃないのなら、お願いがある」

「おう?」

『公認』だって言ったのに。
告白されたあの日からもやっぱり彼は度々、「嫌か嫌じゃないか」の確認を取ってくる。
多分自分が触れることについて、実は俺が我慢していたり嫌な思いをしていたりするんじゃないかとまだ心配しているようだ。

…全く、要らん心配なんだけどなぁ。

「………ぎゅってして」

「…おう?」

そういやこいつの首に腕を回してるんだった。
このまま少し、ほんの少し力を強めたら簡単に艶やかな黒髪が俺の胸に凭れかかる。
多分この距離なら、心音が聴こえる。

気持ち好さそうに、目を閉じられていくのを俺は珍しい角度からぼうっと眺めた。

「本は、もういいの?」

「うん。最初っから読んでなかった」

「振りだった訳ね」

「そう。くっつく口実が欲しくて」

「口実にもなってないような…」

「でも来てくれたじゃん。これ、すげぇ、落ち着く…」

耳を澄ませて俺の胸に凭れかかるシキは、本当に俺のことが好きみたいだ。
変なの。まだ本当に、俺なんかのどこがいいのかまるでさっぱり分からないのに。

だがそれを口に出すとすんごい形相で睨まれるので言わないことにしている。怖ぇもん。
マジで俺のこと好きなのかなって思っちゃうくらい。

「さすがに、そろそろ脚痺れない?」

「おれは寝ています」

「なんてハッキリした寝言だ」

「寝てるので。痺れるとかワカリマセン」

そうか…。
本なんてとっくにローテーブルに置いてしまって、両腕でぐっと俺の身体を抱き締めるのも寝相の一種か。ぐりぐり頭を押し付けてくるのも。

類を見ない特殊な寝相だな…。

そうやってソファーでくっついていたら本当に眠くなった午後。
不思議な体勢で俺も段々うとうとしてきて、目が覚めると今度はシキの膝枕で寝ていたことに気づくのは夕方から夜に変わる頃だった。

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