「隊長ぉー。分かってたけど、やーっぱ澤隊員の元気がありませーん」
「まぁそりゃあなぁ。こればっかりは、あの人にしかどうしようもできないんじゃん?」
「だーよなぁ」
友達の心配してくれてる声が聞こえる。
聞こえるけど、顔上げるのも億劫で俺は机に突っ伏したまま。申し訳ない。
俺は今、考えることがそれはもうたくさんたくさんたくさんあるんだ。
…これも、今まで気づかなかった…或いは気づかない振りをしていたツケなんだろうな。
俺は鈍いとか流されやすいとか何かもうそんなのすっ飛ばして、それはそれはもう馬鹿だったんだろう。
藤倉も気づいていたんだろうか、こんな馬鹿な俺のこと。気づいてんだったら言って欲しかったなって甘えたことも思ってしまうけど、それじゃあきっと意味がなかったんだろうな。
『毎日言ってる』って、もしかしてあれのこと…?
ふと過った考えが頬を熱くさせて、でも隣にいつもある体温がないことにまたがっかりして冷静になって、あいつがまた学校に来なくなったのはやっぱりそんな俺にうんざりしてしまったからじゃないか、なんて嫌な考えが浮かんだりなんかして。
転校、なんて…本人に直接聞いた訳じゃないし、本当にただの噂かもしんないけど。
本当だったらどうしよう、とか。
安心してなんて、一番信じたい奴の一番信じたい言葉を信じられなくなっている。
そんな自分が嫌になって、寂しいやら恥ずかしいやら自己嫌悪やらでもうどうしたらいいのか…。
「「さーわくんっ!遊びましょー!!」」
「おわっ!びっくりした!」
一人もんもんとしていると両肩をポンッと勢いよく叩かれた。あー、心配させてたんだった。
明るく振る舞ってるのはきっと俺のためだ。申し訳ない。けど…嬉しい。
「で?藤倉くんいなくてさびしーよなぁ」
「わかるぅー!俺たちもお前らのイチャイチャ見れなくて寂しい」
「イチャイチャ言うな」
思わず反射的に突っ込んでしまったが、今の言葉で何か引っ掛かることがあって固まってしまった。何て?
「あのさ、お前らに訊きたいことあんだけど…」
「お?澤が相談!?」
「何なに!?」
「俺と藤倉ってその…イチャイチャ?してるように見える?」
………。
長ーい沈黙。
俺の目の前で立ち尽くす友人らの顔は、ポカンと口が開いたままだった。驚いてるような、何を言われたのか分かっていないような、呆れている…ような。
「「え、今さら?」」
「え?」
「「え?」」
ユニゾンで返すな。何か味方がいないみたいになるだろ。
てか、そうなのか。
それってつまり…つまり?
「具体的に、どの辺が?」
一応恐る恐る訊いてみる。と、彼らは顔を見合わせてうーんと考え込む仕草をした。
「そうだなぁ。例えば藤倉くんの表情とか」
「それな。花飛んでんもんな、澤と話す時限定で」
「は、花…?」
何それ、どういうこと。
「あとあれだ、お前もだぞ澤」
「そうそう、お前も結構いい顔してんぞ」
「い、いい顔…?」
それってどんな…?とまでは訊こうとして訊けなかった。少し想像がついてしまったからだ。
また頬に熱が集まる。
そっか。そうなんだ。
てか、周りのが先に気づいてたんだ。
うわぁぁあ…。恥っっっず。
「うぁぁあ」と変な唸り声を上げてまた机に突っ伏してしまった俺の頭上から、クスクスと楽しそうな笑い声が聞こえる。恥ずい。こいつらずっと分かってたんだ。
ポンと頭に手が乗せられてわしゃわしゃと撫でられる。子供扱いかよ。
でもやたらと、手つきが優しい。
「よーしよしよし。大丈夫だよ、藤倉くんは帰ってくるよ」
「うんうん。お前のこと放っとくワケがないに全財産賭けるね」
何言ってんだよお前らは…。でも嬉しい。
最近涙腺がゆるくて困る。すぐ泣きそうになってしまう。
黙ってまた机と仲良しになってしまった友達を見て、彼らは呟く。
「なぁ、前々から思ってたんだけど、こういう時ってやっぱオレら無力だよなぁ…」
「そうかも。て、思わなくもないけど…でも、無力ってことはないんじゃないか?」
「なんで?ポメ撫でさせるくらいしかできんよ?」
「違うよ、さっきの澤見たろ?ちゃんと俺達にも相談してくれるようになったじゃんか。いやぁ成長したなぁ」
「誰目線よアンタ」
「あいつらの友達に決まってんでしょ」
「ま、そだな」
何度も何度も困難があったけど、ずうっと見守ってきたんだ。ただ見守ることしか出来ない時も、正直もどかしくてしょうがなかったけど…。
でもこれは、二人の問題だから。
だから絶対、大丈夫なんだ。と思う。
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