それはまた唐突な提案だった。
「澤くんの家に」
「ダメです」
いつもの帰り道の途中、ふと藤倉が言い出した言葉に俺は反射的にノーを唱えてしまった。言わなくても分かる、俺の家に来たいってことなんだろう。
「まだ最後まで言ってない…」
「ダメったらダメ」
「何で?俺出禁になるようなことした?まだ一回も訪ねてないのに」
「だって、うーん…」
反射的にダメだって言ってしまったけど、改めて考えると何がダメなのか自分でもよく分からない。
友達を家に連れていくなんて普通のことのはずなのに、どうしてこいつにはダメなんて言ってしまったのか。
うーん…。
まさか、まさか有り得ないとは思うが、万が一にもこいつがいつも俺にしているみたいなスキンシップを妹にもしてしまったらどうしよう、とか。
いや、学校でも俺以外に抱きついたりしているのを見たことはないしさすがの藤倉でもその辺の常識は弁えていると思うが、万が一だ。こいつにそんなつもりがなくても、この見た目だけは頗る良い変態を家に連れていくのはどうなんだろう…。 母さんミーハーだしなぁ。
「心配しなくても俺がスキンシップ過剰なのは澤くんにだけだよ」
「心を読むなよ…」
「大丈夫だよ?ちょっと澤くんの生活してる空間をリアルで味わ…見てみたいだけだから」
「どの辺が大丈夫なん?」
「仕掛けるのも澤くんの部屋だけにするからさ」
「え、罠を?」
「あ、口が滑った」
「はぁ…?」
初めは反射的にダメって言っちゃったけど、やっぱりその判断は正しかったかもしれないな。なんてこいつと話せば話すほどそんな風に思えてしまう。
…なのに。
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