オープンテラスで寛ぐその夫婦は端から見ても美男美女で、周りの視線を集めていた。
たがそんなことも、彼らには慣れっこらしい。
一人は楽しそうに、一人は仏頂面で街並みを見るともなく見つめている。
「あなたって本当不器用よねぇ。ふふっ」
「悪かったな」
「一織ったら、こーんな見知らぬ土地で私たちの力も借りずにさっさとチケット取って帰っちゃうんだもの。余程会いたい子が居たのかしら、ねぇ?」
「さぁな」
「まぁ突然連れ出したあなたも悪いけれど。ふふふ」
「…さっきから何をそんなに楽しそうにしてるんだ?」
「あの子があんな風に明るくなった理由、思い出しちゃって」
「何のことだ」
「あなたもすぐに会えるわ。とってもいい子なんだから」
「…?お前は何を、うん?」
ピロンッと珍しい通知音がして、画面を覗き込んだ彼はピタリと動きを止めた。
その様子を見て、隣で優雅に微笑んでいた彼女もそっと画面を覗き込む。するとまた、自然に口角が緩んでしまうのだった。
『先帰って悪かった。でも、礼は言う。さんきゅ』
短い、愛想の欠片もない文面。
けれど言いたいことをコンパクトに詰め込んだ、どこか照れくさくも温かさを感じられる文章に彼ら夫婦は周りも憚らず涙を流してしまった。
「今度の家族旅行は、四人かもしれないわね」
「どういうことだ」
嬉しそうな妻の言葉の意味を彼が知るのは、もう少し先の話である。
そして。
「ちょっと近いって!」
「いつもと一緒の距離だよ?照れてんの?」
「うっさい変態!」
「素直なんだか素直じゃないんだか」
今日も今日とて繰り広げられる、見ているこちらが恥ずかしくなるようなやり取り。
「…なぁ」
「…おう。俺らがポメ撫でてる間に」
あいつら、何かあったな…。
「お前らもそう思うか」
「「うわっ!バスケ部の部長さん!」」
藤倉くんファンクラブ及び彼らの仲を応援する会の、今までで一番重要な議題が出来たこともまた別のお話である。
prev / next