はい賢者ターイム。
タイムです。ちょっと作戦会議。
結局あの後もう一回ほどイカされてしまった後、藤倉は情けなくも息も絶え絶えになっていた俺の身体を献身的に拭いたり水を飲ませたりして(口移しにするところマジで変態)、今は一緒にベッドで寝そべっている。
ただ口角がつってしまうんじゃないかと心配になるほど、藤倉はずうっとヘラヘラ…いや、ニヤニヤを隠しもしないままだ。
頬をつねろうが脛を蹴ろうが髪を引っ張ろうが変わらず、いや寧ろもっと嬉しそうにニヤニヤし続けている。そして俺から視線を離さない。
キモいぞ、なんて言ってやりたいけど。
俺も大抵こいつのこと言えないからただムッと唇を尖らせたまま黙っていた。
やがてそうっと伸びてきた手が、優しく髪に触れる。撫でて梳いて、顔を近づけて匂いを嗅ぐように深呼吸して。
おいこら。でも俺も、駅でこいつに気づいたの匂いだったからやっぱり人のこと言えない。
ちくしょう…。俺もこんなに変態だったのかな。もう…。
「…マイナスイオン発生地」
「キモいぞ」
言っちゃったよ。
「でも、好きでしょう?」
「ぐっ…」
自信をつけた藤倉、怖い。
無敵って感じ。殴りたい、けど、そうさせたのが俺だなんて思ったら何か…むず痒い。
「なぁ、」
「ん?」
「俺とお前って…恋人?」
訊くと、つい今しがたまでニヤニヤしていた相貌が一瞬目を見開いた後、ふーむと考え込むように真顔になった。
「恋人…恋人かぁ」
「ちがった?」
「んーん。でも、そうだなぁ…。おれのは恋っていうか、なんていうかなぁ」
「愛人?」
「中国語本来の意味でなら、まぁそうかもね。…我
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アイ…なんて?ちゃんと聞き取れなかった。
でもそっか、「恋人」じゃないのかな。
でも何となく、俺も言いたいことがある。
「あのな、俺もな…お前と、その」
「うん」
「俺は、お前と名前のある関係にはなりたくないんだ」
友達とか親友とか、恋人、とか。
嫌って訳じゃないけど、当て嵌まる言葉が欲しくなる時もあるけど、でも。
言葉をつけると、それだけに縛られてしまいそうだから。
「いいと思うよ」
「え、いいの?」
「うん。おれと澤くん。それでいいんじゃん?」
「何だそれ、軽いよ」
「軽くないよ。すんごく、ものすんごーく重いよ?」
「それもどうなんだ」
「ねぇ、言ってもいいかな」
「だめ」
「あのね、」
「だめって言った」
「あんまり澤くんの意思ばっか尊重するとまた怒られちゃうから」
「そういうことじゃなくて」
ねぇ、と。
止めたのに、桜色の唇は性懲りもなくまた、あの言葉を紡ぐ。
「あいしてるよ。…どうしようもなく」
「だめって言ったじゃん。………でも」
多分俺の顔は、いやもしかしたら耳まで真っ赤だったと思う。
だけど小さく、本当に小さく「…俺も」と返した時の藤倉の顔は…まぁ、俺だけが知ってればいいや。
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