夏休みって休みのはずなのに、どうしてこんなにも休ませる気のない量の宿題が出されるんだろう。夏休みだろ。休みじゃん!
こんな大量に宿題出さなくてもよくない?
そんな宿題の量にちょっと憤慨していると、何やら校門付近が騒がしいのに気がついた。人がたくさんいるみたいだが、制服が違う人がちらほらいる。
ようく見ると、金とか赤とか結構派手な髪色だったり、はたまたスキンヘッドな人までいるようだ。目立つなぁ。というか…。
皆キョロキョロしてる。誰か探してんのかな。
「あ、いた!コイツですコイツ!地味過ぎてスルーするとこだった!!」
「うぇ!?なに、何っ!!」
今日はまた生活指導の先生にでも呼び出されたのか、放課後になっても教室に来なかった彼。
まぁいいかと華麗にスルーして普通に帰ろうとしていたら何故かそんな人だかりが出来ていて、そしてこれまた何故か俺が声を掛けられた。
というか、肩を掴まれた。
予想もしていなくて流石にビビる。
いや、俺は元々ビビりだったそうでした。
「え、ウソだろ?コレがぁ…?」
「間違いじゃねぇの?」
「というか…地味だわぁ」
「な、何なんですかマジで…!」
突然肩を掴まれたと思ったら派手な集団に無遠慮に凝視されて、あげく地味だ地味だと訊いてもいない悪口の嵐。
何、喧嘩売りに来た?わざわざ俺に?弱っちいのに?流石に怖すぎてぶん殴ってやろうかだなんて冗談でも言えないけど、それでもちょっとは腹が立つ。何なんだ一体…。
「ねぇ君」
「はい…」
「あのルイと仲良いんだって?本当か?」
集団の中のスキンヘッドに声を掛けられた。夏の太陽の反射でギラリと頭頂部が眩しいが、あまり見ていてキレられても嫌なのでわざと見ないように下を向く。
あれ、でもこの人今何つった?
ルイって言った?ルイって、俺の知ってるあのふわふわした奴?他にいないけど、それがどうしたんだろう。
あいつと仲が良いかって、まぁ悪くはないと思うんだけど…。何でそれを俺に訊くんだ。
「さっさと答えろよ」
「んぐっ!」
黙っていると突然顎を掴まれて上を向かされた。いってぇ!って叫びたいけど…上手く喋れないこの体勢。
正直さっきから敢えて言わなかったけどこいつらアレだ、ヤンキーだ!だって野球しそうでもないのに不自然に金属バットとか持ってるし、やたらゴツいバイクに跨がってる奴もいるし、何より全員目がギラギラしてる。
鋭い。俺がいつもよく見てる柔らかいあの視線とは似ても似つかない。
「なぁ本当にコイツで合ってんのか?間違いだろやっぱ」
「でも写真では…顔合ってるよなぁ?」
「あぅ…」
手、離して欲しいいぃ…。振り解こうにも中々力が強いし、ビクともしない。クッソ、悔しい!
「まぁいーや。なぁお前、ちょっとあっちで俺らとお話しよっかっ!?ぐぁっ!いででででっ!!!」
「えーおもろそうー。そのお話、オレも混ざっていーかなぁー」
「え、あ…ルイ」
顎、解放された…。
何かバキバキっていうすごい鈍い音がした気がしたけど、アレって一体…。え、てかスキンヘッドの人蹲ってる…大丈夫か?
「アーキーくん。なぁんでオレ置いて先帰ろうとするん?めちゃ寂しがってんけどぉ」
「えー、だって先生に呼び出されてんだろうなって…長くなるかと思って」
「冷たぁい!オレ泣いちゃうー」
「え、ゴメンて!」
まさかそこまで落ち込むとは思わないじゃん…。オレの肩に頭を預けてグリグリしてくるルイの姿はでっかい犬みたいで、可愛くも見えるけど忘れちゃいけない。
俺、今不良グループに絡まれてるんだった。
理由は分からんけど。
ちらりと辺りを窺うと…みんなめちゃくちゃびっくりしたカオしてる。未だ腕を抑えて蹲ってるスキンヘッドさん以外は。
みんな何だかとんでもなく信じられないものでも見た、みたいな顔をしている…。ほわい。
そしてどこかからポツリと、「合ってたのかよ…」なんて声も聞こえてきた。だから何が?
「あ、そうやアキくん」
「え、何でしょうルイくん」
「オレさぁ、宿題忘れてきてもうてん、教室に。悪いと思ってんねやったらさぁ、ちょっと取ってきてくれん?机ん中にあるから」
「えぇ…俺が?」
何で突然のパシリ。
「そ、アキくんが」
「でも宿題なんて、今度取りに行けば…」
「オレ優等生やから今無いと困るんやわぁ。宿題は渡されたその日に全部終わらせる派やねんな」
「流れるように嘘吐くじゃん…」
こないだ宿題忘れて先生に怒られてたじゃん…。
「いーから行きなさい。先帰ろうとした罰!そんでから保健室行って、顎消毒しといで」
「あご?」
「触られたやろ?バイ菌いっぱいやで」
「でも」
「舐め回したろか?」
「行ってきますっ!!」
あんなに真顔なルイを見たのは恐らく初めてだったので、思わず敬語で返事をしてしまった。そして俺はそのまま言われた通り教室と、保健室へのお使いに駆り出される。保健室のはお使いっていうか分かんないけど、あの目はマジだったのできちんと言われた通りにしようと思う。
「気ぃつけてぇー」という間延びした声を背後に聞きながら、俺は教室へと急いだ。
だから全然、気づかなかったんだ。
「さーて…ちょっと場所移動しよかぁ、なぁ?」
「「「ヒィッ!!!」」」
俺が去った後、真夏だというのにシロクマもびっくりなほどその場の空気が一瞬にして凍てついていたことなんて。
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