ルイと俺が仲良くしててももう誰も何も言ってこなくなった。
視線も、たまーにちらちら見られることはまだあるけど以前みたいに関係性を探るような無遠慮なモノは大分減って、「あ、またやってる」みたいなよく分からない視線が増えた気がする。それからどこか見守るような、生温かい視線も。
睨みつけられたりするより全然いいんだけどさ。ルイはいっつもこんなに見られて生活してんのかなぁと思うと、何か複雑な気分になる。
そして別に頼んでもないのに、今日も今日とて教室までお迎えに来てくれる彼と、最早定番になってる黄色い歓声。
クラスメートの反応だけで誰が来たのかすぐに分かるし、やっぱり間延びした声で呼ばれる自分の名前がちょっと恥ずかしい。
もう一緒に帰るのはお約束になってきちゃったな。
「ルイって結構目おっきいよなぁ」
「それって褒め言葉?喜んでいいとこ?」
「もちろん」
「ふーん…。あんがと」
「『おおきに』じゃねぇんだ」
「ガッカリさせて悪いんやけど、『おおきに』はあんま使わんかな。地域によるけど」
「ほおん」
「あと年齢層とか」
「へぇー」
知らなかったなぁ。
というか、今まで特に知ろうともしてこなかったから当然か。
すっかり暑くなって、セミも本格的に自己主張し始める季節がやってきた。
アスファルトが太陽の熱を反射して、ただでさえ熱い空気を下からもジリジリ熱くさせる。
夕方だっていうのにこの暑さ、夏休みは一体どれだけ暑くなるんだと今から心配しながら、ほんのりオレンジに染まる空を見上げた。
暑いのにやっぱりパーソナルスペースが狭い。
ちらりと見上げると、こてんを首を傾げて微笑まれる。何だか初めてのおつかいを見守られてる幼児の気分…。
「どったん?」
「いや…俺さ、関西人っていったら、大体糸目で口調が柔らかくてでも本気になると目が開いて…そんで物語中盤で裏切る強キャラみたいなイメージだったんだけど」
「うん、漫画の読みすぎやなぁ。とりあえず全関西人に謝ろか」
「さーせんした」
「ふっふふ、代表して許したるわ。おもろー」
なんで。また、そんなカオする。
噂の冷徹極悪ヤンキーってルイのことじゃないんじゃねえの。だってルイは、めちゃくちゃ笑うしめちゃくちゃ優しい。気さくだし、何気に道路側歩くし、人の顔色とか変化にもすぐ気づく。喧嘩?してるとこも実際には見たことないけど別にムッキムキには見えないし、そもそも他人に喧嘩を売るようには見えない。
遅刻とかサボりは、多いみたいだけど。
何であんな噂が立つんだろう。
不思議でならない…。制服の着崩し方とか、それともピアスが多いからとか?
いやいや、そんな理由で…?でも他にあるかな。
「…やっぱ見た目、なのかなぁ」
「ん?何の話ー?」
「いや、なんでも」
「オレのことやろ」
「まぁ」
「どんどん考えて?そんで頭ん中オレしかおらんようになればいいのに」
「どゆこと?」
「んー?オレ不良やから」
「いやだから、どういう………へぁ」
「ふっふふ。オレやっぱアキくんの鳴き声好きやわぁ」
なきごえ。鳴き声。そういや。
ミンミンミンミンうっせーなぁ。でも子孫を残すためなんだから、しょうがないのか。それにしてももうちょっと声量どうにかなんないのかな。
あついなぁ…。くっそぅ。
顔まで熱いや。というか、汗掻いてたおでこも何か、すごい熱いや。
身長的にそりゃ、近かったのかもしんないけども。鼻とか、そう例えば、唇、とか…当たりやすかったのかもしんないけども。
わざわざする意味、何なんだろう。
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