mitei 夏めく手のひら | ナノ


▼ 3

なんだかなぁ。
うーむと考え込みながら廊下を歩くも、やっぱり隣にあるのは最近よく馴染んできた気配。
と、爽やかな香り。

何でこうなったのか。周りの視線には段々と慣れてきちゃったけど、彼の存在にはまだちょっと慣れない。

本当に謎。
嫌われるんならまだ分かるよ?
でもここ最近ずっと教室まで迎えに来たり一緒に帰るようになったり…。やたらと俺に接触してくる彼の表情にも言葉にも、悪意なんて微塵も感じられない。ほわい。

校内でもやたらと遭遇するし、その度に気さくに話し掛けてくるし…何で殴った相手にこんな好意的なの?本当に敵意とかないのかな。

隣を見上げるとやっぱり鼻唄でも歌い出しそうなご機嫌な横顔がある。そんなに楽しいのか、俺と居て。分からん…。

さっきなんて先生に頼まれた一クラス分のノートを持っていく途中、ひょっこりとどこからか現れたルイに半分以上のノートをかっさらわれたし。その上律儀にも、それを一緒に職員室に届けてきたところだし。つまりは手伝ってくれたらしい。…不良ってこんなんだっけ。
俺の知ってる不良と違う。クラスも違うのに。

「なぁ、ルイって学校イチ最強の不良さんじゃねーの?」

「え、そうなん?てかそれ本人に訊く?」

「いやぁ、噂と違うなぁって」

「どんな噂流れてんのか知らんけど、オレ超優等生やで」

「ふぁあー」

うっそやん。

「え、なに今の鳴き声?甘えたいサイン?」

「や、全然違いますけど」

驚きを表現した相槌ですけど。
だからね、手を広げて「しゃあないなぁ」なんて、よく分からないポーズをしなくていいんだよ。確かにルイがやったら絵になるけど、甘えたいサインじゃないから。

無視してたら腕の方から近づいてきて何故か結局抱き締められたけど、要らんって言ってるでしょうが。あ、声には出してなかった。

抵抗するのも面倒なので腕の中に収まったまま顔を見上げてみる。クッソ、身長差!

「ねぇ優等生さん、さっき先生に呼び出されてたのは?」

職員室寄った時ね。ちょいちょいって、生活指導の先生に呼ばれて何か話してたのを俺は見たのだ。

「んー、愛の鞭…的な」

「怒られてたんだなぁ…」

遅刻とかしたんだろうなぁ。

「遅刻とかしたんだろうなぁって?ご名答ー」

「うわ、心の声読んだぁ」

「顔に書いてた」

ああ、またそんなカオする。
気のせいか事実なのか、よく話すようになった彼は時折とても柔らかい表情をする。
意外と…なんて言ったら失礼だけど、感情豊かなんだな。きっと、優しいんだろうな。
知らんけど。

彼に関しては怖い噂しか聞いてこなかったから、そのせいで余計そんな風に見えるのかもしれない。あれだよ、不良が雨の中にゃんこを抱き上げてると好感度上がっちゃう、みたいな。
違うか。

「アキくんてさ、」

「なに?」

「絆されやすいて、よく言われへん?」

「ほだ…?や、全然」

「…オレが言えたことでもないけど、心配やわぁ」

「ふぁあ」

「出た甘えたいサイン」

「うぉあ」

今度は顔も見えないくらいぎゅうってされた。
だから違うっつってんのに…。

噂以外の新発見。ルイはパーソナルスペースが狭いらしい。というかゼロに等しいみたいだ。

暑くないのかな。俺は暑い。

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