「悪いけどオレ、キミと付き合うとか無理やから。諦めて」
「………は」
「あー、言うとっけど、身体だけでもーってのも無理やから。そういうの余計無理。他当たってくれ」
「………いや、」
いやいやいや。
何言ってんのこの人。
「別にキミが悪いとかやないよ?けどオレさぁ、心に決めた人がおるから」
「いやいやいや」
こっちはなーんにも訊いてないんだが?
俺はただ、ごみ捨てに来ただけなのに。
たまたま通りがかったところに寝そべってた奴に、どうしていきなりこっぴどく振られなきゃなんねぇんだ。
「てーわけで、さっさと失せてくれ」
は?ごみ袋持ったまんまでか?
顔面に投げつけてやろうか…。
「あの、俺はただ」
「しつこいと嫌われんぞー」
………はぁあ?
「………こんの」
バシンッ!!!
「いっっっだぁ!!!?」
「だぁれが!!お前なんかに告白するか!バァァァカッ!!こんのクソナルシスト野郎!!!」
ドサッと地面に落ちるごみ袋に、じんじんと痛む拳。
そして視界にはこれでもかと見開かれた相手の瞳と、真っ赤に腫れた頬。
ちょっと早めに鳴き始めたセミの声がやけに五月蝿く耳に響いた。
高校一年、初夏。
ケンカとは無縁だった俺が初めて人を殴った瞬間であり、こいつと出逢ったきっかけである。
あー。結局ごみ袋じゃなくて、自分の拳で殴っちゃったよ。
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