「店員さんかわいーね?おれとお茶しない?」
「…ご注文は」
「バイト何時まで?てか超無表情じゃん!ダメだよ、笑顔笑顔ー!」
「ご、注、文、は」
「えーとね、カフェオレ二つ!一つは砂糖多めね!何で二つか知りたい?恋人の分なんだけどぉ」
「はぁ…。アンタそんな甘いもんばっか摂取して糖尿病にでもなるつもりですか?大丈夫ですか?主に思考回路とか」
「えっ、心配?してくれてんの?やっべ、おれの恋人超優しいー」
「妄想が強いですね、毎日楽しそうで羨ましいです」
「うん!めっちゃ楽しい!最近は特にね」
「はぁー」
「わぁお大きい溜め息。幸せ逃げちゃうぞー」
「るせーわ…」
日も傾きそろそろ閉店の時間。
そんな時にやって来たのはタカハシ…と名乗っている怪しい青年である。
今日は黒髪だが、瞳の色は薄い水色。
カラコンもサングラスもない、そのままの色。
初めてこの人の変装を見破ってしまったあの日から色々あり、紆余曲折を経たり経なかったりしてこの変態に懐かれ(?)てしまった俺はもうすっかりこの人のペースに振り回されている。
職業自称探偵のこの人は、俺の本名からバイトのシフト、住所まで何もかもお見通しらしい。
さっきのやり取りだってわざとらしいったらない。こっちは一日立ち仕事で疲れてるんだぞ、と文句の一つでも言いたくなってしまう。
「はあぁー…」
「りょうくんの逃げた幸せキャッチ!今日はこのままおれん家来るでしょ?」
「なぜ疲れきった身体で汚部屋に行かなきゃいけないのか…」
「片付けてるよ?一応は」
「一応は」
「おいでよ。明日は休みだろう?」
ふっと微笑ったその顔はいつもの無邪気なものじゃない。絶対に何かを企んでいるし、それを隠しもしないで俺を試しているような笑みだ。
まるであの日、わざと砂糖なしのブラックコーヒーを頼んだ時のような…。
「透羽さん、アンタやっぱり性格悪いね」
「そうかな?知ってて付き合ってくれるきみは天使か、或いは」
或いは…同類、かもしれない。
「とりあえず殴っていいですか」
「店長さーん、店員さんが客に暴力を、」
「やめろ告げ口するな」
「ふっふふ」
無邪気に笑う彼の本当の色は、俺しか知らない。らしい。
二人きりになったらやっと、やっとあの色のない透明を見ることができるのだろうなと思うと胸がほわほわする。
そんなことはムカつくから絶対に、そう、絶対に言ってやんない。
「ふふ」
「なに笑ってんですかもう」
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